尾上菊五郎が5月の歌舞伎座昼の部で、音羽屋(菊五郎家)の家の芸である「加賀鳶(とび)」の道玄と鳶の梅吉の2役に初挑戦する。「道玄は汚い格好をする役でしょ。まさか自分がやるようになるとは思っていなかった」と語る。
芝居の流れは2筋からなる。一つは加賀藩お抱えの鳶職が活躍するくだり、もう一つはもみ療治師の道玄が悪事の果てに捕縛されるまで。道玄は人を殺し、女房を虐げ、質屋の主人を恐喝する悪人だが、愛きょうがあって憎めない。愛人のお兼とゆすりにいく「質見世」では、加賀鳶の松蔵に手もなくやり込められる。
道玄は、菊五郎劇団の先輩である二代目尾上松緑が得意としていた。鳶役で出演することの多かった菊五郎は「おもしろくて、鳶の出番が終わるといつも陰から舞台をのぞいていました」という。
初演は五代目菊五郎。「つっこんでいながら松蔵にコロンとやられる。サービス精神旺盛だった五代目の芸風がよく出ている。初演ですし、これがテストケース。いずれ通しでやりたいですね」
序幕で加賀鳶が花道から舞台に勢ぞろいする「木戸前」も見どころのひとつだ。お兼は中村時蔵。こちらも汚い作りの役だが、「彼もぜひやりたいと言っていました」と菊五郎。
その2人が夜の部では清元舞踊「夕立」で色模様を見せる。「小猿七之助」の通称で知られる黙阿弥作品が題材だ。落雷で気絶した奧女中の滝川を介抱した七之助は、思いを遂げようと口説きにかかる。七之助は菊五郎、滝川は時蔵。
「季節的にもいいんじゃないか。あっという間に終わります。私の数少ない経験を生かし、『おもしろいけれど何かいやらしい一場だったな』と思っていただければ」
5月2日から26日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年4月27日 東京夕刊