余録

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

余録:豚インフルエンザ感染拡大

 1918(大正7)年6月6日、小紙の前身である大阪毎日新聞の夕刊にこんな記事が載った。「西班牙(スペイン)王アルフォンソ、首相マウラ氏以下数名の閣員及び西班牙国民の三割は、病名不明の伝染病に罹(かか)れり。該病の症状は高熱、胸部の痛み及び下痢等……」▲その12日前、同じく東京日日新聞は伝染力の強い「三日風邪」の関東での流行を報じた。記事は子供や老人よりも「血気盛りの人」の発症が目立つという。世界で4000万人が死亡したという「スペイン風邪」の国内での報道の始まりだ▲報道の前後が示す通り何もスペインが発生源ではない。実は米国から欧州へ広がったのだが、第一次大戦中の各国は疾病情報を検閲で抑えた。その中で王族らの感染が派手に伝えられた中立国が病名に冠されたからスペイン人もいい迷惑だ▲そのスペイン風邪の時と同じように20歳から50歳までの「血気盛りの人」の発症が目立つという今度の豚インフルエンザだ。最初に発生したメキシコですでに死者100人以上を数え、感染者やその疑いが出ている国は南北米大陸から欧州、ニュージーランドなどに広がっている▲こうなればいやでもスペイン風邪のような世界的流行が心配になる。米国などの感染者は比較的軽症というが、毒性など実態の解明を急ぎたい。さしあたり日本政府は検疫など水際対策を強める一方、ワクチンの優先製造に取り組むという▲スペイン風邪は戦争による軍の移動と情報統制下で感染を広げた。未知の感染症の脅威は、確実に人類の弱点を突いてくる。ここは正確で迅速な情報公開と緊密な国際協力により、21世紀の文明の底力を示さねばならない。

毎日新聞 2009年4月28日 0時07分

余録 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報