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オーマイニュース:なぜ閉鎖? 韓国発の市民参加型メディア

市民記者の勉強会「オーマイカフェ」(2006年9月東京都港区のオーマイニュースインターナショナルで=当時=撮影)オーマイニュース提供
市民記者の勉強会「オーマイカフェ」(2006年9月東京都港区のオーマイニュースインターナショナルで=当時=撮影)オーマイニュース提供

 市民参加型のニュースサイト「オーマイニュース(日本版)」が24日、閉鎖された。先行した韓国ではネットメディア最大手に成長したオーマイニュースだが、日本では続かなかった。【柴沼均、岡礼子】

 オーマイニュース(呉連鎬代表)は00年に韓国で創設された。02年の大統領選では盧武鉉大統領の当選に大きな影響力を発揮。前政権に近かった大手メディアへの不信感から、「ネットを利用すれば、新たなメディアを市民が生み出せる」ことが注目を浴びた。

 「日本版」は、韓国の成功例に注目したソフトバンクと、海外進出を目指す呉代表の思惑が一致。06年8月、ソフトバンクが7億円を出資し、事業会社として経営陣や技術を提供する形でスタートを切った。初代編集長にはジャーナリストの鳥越俊太郎さんを迎えた。

 責任ある議論の場にしたいと、市民記者には実名、銀行口座などの登録を求めたが、すぐに2000人を超えた。創刊前に鳥越さんが「既存メディアを5年で凌駕(りょうが)することは間違いない」と毎日新聞に寄稿するなど、編集部の士気は高かった。創刊前に市民記者の登録をした木舟周作さんも「自転車で海外を回った経験から、メディアの情報は一面的だと感じていた。直接書けるのはおもしろい」と期待した一人だ。

◇何がニュース? 食い違う編集部と市民記者

 しかし、鳥越さんが大手掲示板2ちゃんねるを批判したことから、同社のブログに批判が殺到。「朝鮮メディアの反日活動」など記事と無縁の韓国攻撃も目立った。このため、読者が記事に対して書き込むコメントを自由なものではなく登録制に変更、滑り出しでつまずいた。さらに、あらかじめ登録した市民記者しかコメントできなくした。「既存メディアと同じ」との失望を招き、「匿名で自由に」が主流のネットでは幅広い層の支持を得られなかった。

 「すべての市民が記者になる」と打ち出したものの、編集部も参加型メディアの具体像をすぐには描けなかった。市民記者の記事は年金、派遣労働など市民記者の体験記事もあったが、多くは新聞やテレビが報じた北朝鮮や靖国神社などのニュースへの意見・論評。身近な事実に即したニュースを求める編集部と食い違う。3代目編集長の平野日出木さんは「(市民記者が)政治や外交、事件など、自分が取材したり、体験できない大きなテーマこそがニュースだと勘違いし、それについての意見を書いていた」と振り返る。

 編集部は、市民記者らしい切り口の記事に賞を出すなどして執筆を促し、取材のアドバイスも試みた。しかし、人手が足りず、中には掲載まで1カ月放置された原稿もあった。平野さんは「市民記者は編集部とのコミュニケーションを求めたが、予想以上に負担が大きかった」と話す。202本の記事を書いた木舟周作さんは「市民記者は、書き直しや再取材に労力をかける熱意はない。掲載されなければやる気を失う」と話す。自分の記事を中傷するコメントを付けられた市民記者が書く気を失うこともあった。

 韓国オーマイニュースの市民記者出身で、「日本版」に出向していた朴哲鉉(パク・チョルヒョン)さんは「韓国ではほとんど編集しないという私の意見も通らなかった。編集部がどうすればネット利用者に受け入れられるか、空気を読まなかった」と話す。

 しかし、ページビューは伸びず、広告も入らない悪循環で、08年7月、社員20人をいったん全員解雇して組織を縮小。資産運用や家電製品の体験レポートを載せる「オーマイライフ」に改変し、タイアップ広告で収益を得る方式に替えた。社長には小宮紳一さん(元アイティメディア執行役員)が就任した。だが、直後に景気が悪化。小宮さんは「企業の反応は悪くなかった」とみるが、これまでの赤字を補填し、事業を拡大するのは難しいと判断した。ソフトバンクは新たな出資をしなかった。

◇認知度は高かった 元木昌彦さん

 市民記者の記事数は多い時で1日約30~40本、登録は4792人になったが、創設時に目指した「4万人」には及ばなかった。「日本版」はビジネスとしては成り立たなかったが、2代目編集長の元木昌彦さんは「日本版の市民メディアのありかたが見えてこなかった。でも、参加型メディアは試行錯誤の途中だ。オーマイニュースの経験を次に伝えたい」と振り返る。

オーマイニュースの画面
オーマイニュースの画面

 年金や派遣労働など、市民記者自身の問題にかかわる記事も出た。陸橋の整備不良を記事にして、コメントをきっかけに自治体に対応をもとめたケースもある。平野さんは「最初はとまどったが、記事を出すとすぐに読者の反応が返ってきて気づくことがある。ネット特有の双方向のおもしろさを体験できた。機会があればまたやりたい」と意欲をみせる。

 日本のメディア関係者はスタート前から、「日本版」には悲観的だったという。上智大学新聞学科の橋場義之教授は、日韓の違いとして「政治状況」「大手紙への信頼が薄れているメディアの状況」「国民の性格」を挙げ、「新しいメディアは読者の信頼を得て、アイデンティティを確立することが必要だが、オーマイニュースは両方に失敗した」と分析。市民メディアの草分け、「日刊ベリタ」の永井浩・元編集長は「大手でなければ報道できないこともあるが、そこから抜け落ちた問題に対して声を上げるメディアも必要だ」と意義を語る。市民参加型メディアの試行錯誤は続く。

 ◇ ◇ ◇

◇「ネットで収益難しい」 森永卓郎さん(経済アナリスト)

 オーマイニュースの読者相談欄で回答者をしていたが、連絡がこなくなって終わったので、(編集部は)迷走しているなと思っていた。日本は求める情報の質が高いのかもしれない。本当に面白かったら、ページビューは増えたと思うけど、そこまでのレベルではなかった。ネットで収益を上げることは難しい。ページビューで広告収入を得るモデルは苦しいでしょう。ネット広告の総額は増えていても、競合するサイト数も増えている。

◇「タイミング悪かった」 ヤフー・川辺健太郎さん(事業統括本部企画部長)

 オーマイニュースからヤフーに記事配信を始めたころのシンポジウムで、市民記者の位置づけが中途半端ではないかと話した。言論や分析ならすでにブログがあり、新聞記事もネットに出ている。ウェブ進化の上で適切なタイミングではなかったのではないか。市民記者の数が多ければ、地域のニュースを速報できるかもしれないし、新聞社の支局がない地域のニュースを発信する価値はあるかもしれない。しかし、ジャーナリズムはお金がかかり、難しい。

 (ヤフーでは)08年8月から、新聞社などが配信するニュース記事に、一般の読者がリンクを張る仕組みを取り入れた。記事を書くのは大変だが、リンクならという人は多い。これまでもリンクの不備を読者に指摘されることがあり、多くの人が最適なリンクを探して更新を繰り返すことで、健全性が保たれると考えている。ネット上の百科事典ウィキペディアと同じ考え方だ。現在、一般のリンク編集者は450人。誤字、脱字だけを修正する人がいるなど、役割分担ができている。

2009年4月27日

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