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社説:視点 自転車3人乗り 街づくり見直す契機に=論説委員・中村秀明

 「歩道をわが物顔で走る」「ルール無視、マナー欠落」といった自転車への悪口を聞くことが増えてきた。こうした中、6歳未満の幼児2人を乗せる自転車の3人乗りが7月、警察庁の方針転換で合法化される。2人乗りがだめなのに、「さらに危険になる」と危惧(きぐ)する声も強い。

 確かに日本の都市は3人乗り自転車がゆったりと走れる状況ではない。交通事故の危険はつきまとうし、自ら転倒したり歩行者を傷つける恐れもある。だが、それは3人乗りだけに問題があるのではなく、道路の形状や車線の設定、ドライバーや自転車の乗り手の意識とマナーといった構造にも課題が多い。そもそも普及率が80%を超え、排ガスも出さず場所もとらないのに、自転車を交通体系の中で、まともに扱ってこなかったことが大問題なのだ。

 この際、3人乗りの合法化をきっかけに、自転車を交通体系に明確に位置づけ、幼児を2人抱えた母親であっても移動しやすく安全な、つまり多くの人にとって住みやすい街づくりを進めてはどうだろう。

 まず、3人乗りを普及させるため、自治体は支援策に踏み出してほしい。強度を高め、転倒しにくくした新製品は1台6万~8万円と高価なうえ、使用年数は限定されている。前橋市(上限4万円)のような購入補助制度や、自治体主導の貸出制度などが必要だ。その見返りとして、制度を利用する親子に交通法規やマナーを学び、ヘルメット着用など安全対策を心がける講習などを定期的に催す。子供の目を意識して大人はエリを正すし、幼児は自転車利用者としての基本を身につけることができるだろう。

 自動車のドライバーに3人乗りをはじめ自転車への安全配慮を徹底させ、自転車の乗り手には歩行者優先の意識やマナーの向上を図ることも忘れてはならない。その先には、仕方なく自転車に歩道を走らせてきた政策を転換し、自転車は車道を安全にスムーズに走り、歩道は歩行者が安心して歩ける空間にする未来像を描きたい。中心街を徒歩と自転車主体にした「歩くまち」を掲げる京都市のような取り組みが広がってほしい。

 3歳と1歳の子供を持つ母親からメールが届いた。今は怖くて自転車に乗れないが、「3人乗っても安定する自転車の発売を心待ちにしている」という。

 世の中には2種類の考えがある。「危ないからやめておけ」と「危ないから何とかしよう」。前者は正論だが、現状がおかしいと思うならば、みんなで何とかすることを選びたい。

毎日新聞 2009年4月27日 東京朝刊

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