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社説

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入札改革―「指名」方式からの決別を

 政府・与党が今月、15兆円余りの新経済対策をとりまとめた。厳しい財政状況のなか減り続けていた公共工事が増えるのは間違いない。

 そんななかで千葉市長の汚職事件が明るみに出た。

 収賄の疑いで逮捕された鶴岡啓一市長は、贈賄側の業者を道路工事の入札の指名業者に入れるよう市幹部に指示した疑いがもたれている。贈賄業者は、市側から伝えられた他の参加業者に談合を持ちかけて、高値の受注に成功したと捜査当局は見る。

 行政の側が特定業者のため談合のおぜん立てをした、典型的ともいえる「官製談合」である。

 選挙での支援が欲しい自治体トップと事業の受注を望む業者が公共事業を媒介に癒着する構造は、なかなかなくならない。県の発注工事にからんで06年には福島、和歌山、宮崎の各県知事が摘発された。その後も各地で市町村長らの逮捕が相次いでいる。

 この根を絶つには、「官」の恣意(しい)が働かないよう発注の透明度を高め、談合が起きないような競争の仕組みを整えるしかない。

 千葉の事件でも悪用された指名競争入札方式は原則として廃止し、だれでも参加できる一般競争入札に切り替える。この方向で、自治体は取り組みを進めるべきだ。

 国土交通省の昨年の調査では、都道府県や政令指定都市はすべて一般競争入札を導入済みだが、対象を高額の工事に限っているところもあった。市区町村の導入は約6割にとどまっている。各地の入札改革が足踏みをしているのには、わけがないわけではない。

 自治体が一般競争入札をためらうのは「ダンピングが広がり、工事の品質が維持できない」「入札に手間がかかる」といった理由からだ。公共事業が大きく減る中、行きすぎた低価格競争は困ると、地元建設業界の声も強まっているという。

 福島県の試みに注目したい。

 07年に指名競争入札を全廃したが、業界や県議会の要望で昨春に一部復活させた。だが1年試してみても、工事の品質向上や入札手続き短縮などの効果はみられない、と結論づけた。県の有識者らの委員会では、ダンピング防止は「指名」とは別の観点で改善すべきだとの意見が大勢を占めたという。

 福島県は今月から指名方式を廃止し、条件つきで一般競争入札を本格導入した。技術力や地域貢献の度合いを加味して業者を決める「総合評価方式」も拡大し、地元業者への影響にも配慮するという。透明性の確保が条件だが、こうした工夫も参考になる。

 大規模な補正予算が執行されるのを前に、入札制度が公正かどうか、もう一度確認して欲しい。納税者の目が厳しいことを忘れてはならない。

先端研究基金―厚い土台づくりに生かせ

 先端研究に、どーんと、巨額の資金が投じられることになった。経済危機対策の補正予算15兆円のうち3千億円で、最先端研究のための基金を作る。異例の大盤振る舞いである。

 日本の将来を切り開くためには、科学技術への投資が重要であることはいうまでもない。投資が真に生きる使い方をしてもらわなければならない。国の借金で投じるのだからなおさらだ。

 であればこそ、いくつか気になることがある。

 30人の中心研究者とテーマを選んで平均90億円の研究費を支給し、3〜5年で世界をリードする成果を上げてもらうという。対象は、基礎研究から、出口を見据えた研究開発まで幅広い。

 だが、こんな短期間で、画期的な成果はそう簡単に生まれるものではない。本当に新しい成果を生むには、長い目で育てていくことが大切だ。

 集中投資にも疑問がある。このところ「選択と集中」のかけ声のもと、研究費が旧帝国大学、とりわけ東大に集中する傾向が強まっている。

 東大は規模が大きいこともあるが、10位の神戸大の研究費はその15%しかない。英米の10位は1位の35%程度。20位だと、米国の25%、英国の17%に比べて日本はわずかに6%だ。英米ではすそ野がしっかり支えられている。

 さらに集中が進むと、研究者の移動の妨げになり、研究にとって大切な人材の多様性が失われる恐れもある。

 何より心配なのは、目的とは裏腹に若い研究者の才能をつぶしかねないことだ。多額の研究費で甘やかされたり、逆に短期的な成果をめざす大プロジェクトの歯車になって自由な発想を奪われたりしないだろうか。

 せっかくの資金だ。研究のすそ野を広げ、多様な研究を育むとともに、細胞や遺伝子などの研究材料を集めたバンクや装置開発など、将来を見すえた研究を支える基盤作りに生かしたい。

 内閣府は今回、研究者にとっての使いやすさを最優先にするとしている。省の縦割りや予算の単年度主義などの弊害と、研究者が研究費の申請や評価に忙殺されて研究どころではないという現状を踏まえてのことという。

 そうした問題意識があるなら、いまの制度や運用も並行して改革してほしい。その方が全体の底上げになる。

 また、配分の決定には透明性が欠かせない。科学技術政策の司令塔である総合科学技術会議で、麻生首相は「最終的に私が決める」と発言した。意気込みは結構だが、ここは、目利きを集めて知恵を絞ったほうがいい。

 新しい治療法につながると期待されるiPS細胞の研究では、先んじたはずの日本の優位が米国の急追で揺らいでいる。研究基盤の分厚さの違いだ。

 巨額の資金は、日本全体の研究基盤の強化につなげてこそ生きる。

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