きょうの社説 2009年4月26日

◎外国人誘客 仏中心に欧州売り込みに力を
 昨年の石川県内の外国人宿泊者数が過去最多を大幅に更新し、欧州客などが約46%増 の高い伸びを示したことは、兼六園の「三つ星」を筆頭に、ミシュランやブルーガイドの格付け効果が表れた結果と言えよう。今後は台湾や韓国などに加え、ヨーロッパに向けた石川発信をこれまで以上に意識して進めたい。

 県内の観光客動向の指標とも言える兼六園の入園者数をみても、昨年度は全体で前年度 より約12%増加し、大型イベントのあった二〇〇一、〇二年度を除き過去十年で最多となった。外国人入園者が増加したことが大きく、EU圏の伸びが目立っている。

 とりわけフランスの伸長が際立ち、〇六年に千七百五十六人だった入園者が、〇七年に 二千四百六十六人、〇八年には三千六百七十三人となり、全体でも五位とオーストラリアや中国より上位に入っている。一位の台湾の約九万人、二位の韓国の約一万三千人には及ばないが、日本から距離的に遠いハンディや、団体より個人旅行を好む欧州スタイルを考えれば、高い伸びを示していると言える。

 「ラ・フォル・ジュルネ金沢『熱狂の日』音楽祭」や、金沢21世紀美術館とルーブル 美術館の友好交流、さらに来年五月には金沢で日仏自治体会議が開催されるといったように、各方面でフランスとのつながりが深まってきた時期でもある。こうした結びつきを生かして企画を練り、現地に赴いて果敢に売り込みを展開するなど、官民挙げてフランスを中心にした欧州誘客キャンペーンを打ち出したい。

 今月に入り金沢市観光協会がフランス語のホームページを開設、同市内を走る「まちバ ス」がフランス語の案内を導入したように、自国の文化と言語へのプライドが高いフランス人に向けたインパクトのある仕掛けが整ってきた。県が今年度初めて招くフランスのメディアや旅行会社に対しては、こうした旅行環境のソフトの整備も積極的にアピールしたい。

 さらには、県全体を厚みのある観光の集積地として、金沢と同様にミシュランの「星」 が多い能登や、多彩な温泉地などを抱えた加賀の魅力も大いに印象づけたい。

◎臓器移植 海外に頼らない道探る時
 今国会で臓器移植法の改正をめざす動きが急速に広がってきた。来月に世界保健機関( WHO)が海外渡航移植を制限する指針を決議するからだ。厳格に運用された場合、心臓移植を海外に頼らざるを得ない子どもには、とりわけ深刻な影響が及ぶ。

 一九九七年に施行された臓器移植法はもともと三年をめどに見直すはずだった。〇六、 〇七年に議員提案された三案は国会で事実上たなざらしになっていた。国際状況の変化で対応を迫られたとはいえ、国内で八十一例にとどまる脳死臓器移植をさらに増やし、海外に頼らない道を真剣に探る時期にきていることは確かである。

 現行法は脳死での臓器提供は十五歳以上に限られ、本人の書面による意思表示が必要と なる。議員提案の三案は▽脳死を一律人の死とし、年齢制限をなくし家族の同意で臓器提供を可能とするA案▽現行の枠組みで提供可能年齢を十二歳まで下げるB案▽脳死の定義をさらに厳格化するC案である。

 このうちA案は臓器移植の道が格段に広がるため、移植推進派の支持が根強いが、臓器 移植の場合に限り脳死を人の死としてきた定義を一律に人の死とするのは、法律の核心部分を根本的に変えることを意味する。移植医療との関係でできた限定的な概念を人の死全体に当てはめようとすれば、激しい議論を呼ぶのは必至である。

 最大の焦点は法施行時からの課題でもある十五歳未満の臓器提供の是非である。小さな 子どもの心臓移植は、大人の心臓では大きさが合わないため閉ざされた状況にある。大人より困難とされる脳死判定、提供意思が親に委ねられることなど詰めるべき課題は多い。

 日本の臓器移植法は世界でも例のない厳しさで、推進派からは「臓器移植禁止法」と揶 揄(やゆ)されてきた。それは本人の意思を大前提としてきたからであり、子どもの臓器提供に道を開こうとする場合、家族も含めた意思表示の在り方が論点となる。国会で改正機運が盛り上がったこの時期を逃さず、年齢制限を撤廃した場合の具体的な問題点にまで踏み込み、議論を深めてほしい。