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鳩山邦夫総務相は3日、「かんぽの宿」売却問題で、オリックス不動産が譲渡先に内定した入札の手続きに不公平・不透明な部分があったとして、日本郵政の西川善文社長を総務省に呼び、民営化後初の業務改善を命じた。鳩山総務相に「適正な企業経営を」と厳しく迫られた日本郵政は6月末までに改善策を報告する。【望月麻紀、中井正裕】
昨年12月26日にオリックス不動産への事業譲渡を締結し、1月6日に鳩山総務相が「なぜ今か、なぜ一括売却か、なぜオリックスなのか」と疑問を呈してから3カ月。総務省は日本郵政に提出させた入札に関する膨大な資料から「16の問題点」があったとして、この日、鳩山総務相自ら会見で説明した。
16の問題点は、不動産市況が低迷する中、譲渡先選定のアドバイザー会社から入札中止の助言を2度受けながら検討しなかった▽かんぽの宿は簡易保険の加入者向けの低料金で赤字が発生したため、帳簿上の資産価値を切り下げ、譲渡額はその低い簿価が基準だった▽簿価62億円のスポーツ施設「世田谷レクセンター」(東京)を一括売却から除外することは、西川社長も知らなかった--など。
「裏付けとなる資料」(総務省幹部)のコピーも開示され、08年1月のアドバイザー会社契約時の稟議(りんぎ)書では、想定売却額は640億円で計算され、オリックス不動産との契約額109億円の約6倍に達していたことも分かった。
資料を手に、鳩山総務相は「日本郵政は『かんぽの宿は国民共有の財産』という認識が薄く、入札手続きは不公平・不透明。企業統治も不十分。国民から見れば(入札手続きは)出来レースだ」と厳しく批判した。
命令書を受け取った西川社長は「重く受け止めて対処する」と述べた。ただ、その後の会見では、入札条件の変更が西川社長の耳に届いていなかったことを「報告が(担当執行役員の)口頭だったり、メモがないというのは当然改めたい」と話す一方で「組織の権限に基づいたもので問題はない」と言い、総務省との認識の違いも露呈。6月末の株主総会に向け、執行体制の刷新に発展する火種はなおくすぶり続ける。
日本郵政に改善命令が下り、「本業」に影響する恐れが出てきた。
鳩山総務相は、3月末に内容の修正を指示した日本郵政の09年度事業計画について、今回の改善命令への対応を踏まえて修正計画の認可の是非を判断する考えを示した。郵便事業会社は10月に宅配便事業の統合を予定しており、認可が遅れれば、統合が遅れることにもなりかねない。
鳩山総務相は「国民の目線での判断」と強調して日本郵政に対する監督権限行使を繰り返している。与党内からは「目立ちたいだけ」(中堅)との声もあるが、衆院選の足音が聞こえる中、日本郵政批判の次なる矢を放つこともあり得る。
赤字事業の「かんぽの宿」の売却も含め、なお課題は山積。経営の混乱が今後も続けば、西川社長の進退を問う声が再び高まる可能性がある。【赤間清広、石川貴教】
毎日新聞 2009年4月4日 東京朝刊