黒一色だった世界経済に、か細いながらも光がのぞく。先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が期待を込めて示した最新の景気認識だ。ただ道半ばの金融安定化など、課題はまだ山積する。回復が確実なものとなるよう、これまで決めた対策の実行を急がねばならない。
経済協議をめぐっては、もう一つ新しい潮流が見えてきた。先進国のみの「G7」から、中国、インドなど新興国も含む20カ国・地域、「G20」へのシフトだ。このうねりに日本は十分対応できているだろうか。
金融危機を受けて活発化したG20体制は、昨秋のワシントン、3週間前のロンドンと2度サミット(首脳会議)を開いた。今回のG7はロンドンG20で首脳らが敷いた路線を踏襲し次のG20につなぐ中継的な位置づけになった。G7の直後にはG20の財務相・中央銀行総裁会議も開かれた。共同声明こそないが、G20を「新興国の声も一応聞く場」と軽くとらえることはもはやできない。
日本を含む先進国の成長率が大幅なマイナスに沈む中、世界経済のけん引役として期待されるのが新興国である。一方、これまで後発組として先進国に要求するだけだった彼らを、責任あるパートナーとして枠組みに取り込んでいかなければ解決できない課題が増えている。
この現実にいち早く対応したのが欧州勢だった。G20のサミット開催を率先して唱え、議題設定でも主導した。G7参加の独、英、仏、伊に加え欧州連合(EU)欧州委員会やEU議長国の参加枠を確保し、EUの会合で共通主張を固めてからG20会議に臨む周到さである。
新興国も独自に結束を強めている。さらに中国は米中による主導体制「G2」をうかがっている。
そんな中、「G20はあくまで非公式、一時的な対話の場」との認識から抜けられないのが日本政府のようだ。「20カ国は多すぎ」「新興国は専門的な金融の話が理解できない」との声が政府内から聞こえてくる。
G7の方が効率はいいだろう。すぐに消え去るわけでもない。だが新興国を含む枠組みに軸足が移るすう勢は止められそうにない。好むと好まざるとに関係なく、戦略的な関与が必要である。
新しい枠組みでは今まで以上に構想力と交渉力が問われる。金額だけで表す貢献では不十分だ。複雑にからみあう各国の利害の中で、問題解決に向けた創造的な提案を行い周囲を説得する国でないと存在感は薄れる。日本の場合、G20以外の国も含むアジア全体の意見を、中国や韓国と共同で集約し発信していくことが重要になってくる。
新しい枠組みを作る「100年に1度の好機」と見た方がいい。
毎日新聞 2009年4月26日 東京朝刊