「万歩(まんぷ)」と呼ばれる手掘りのトンネルが美作市稲穂地区にある。高さ一メートル、幅八十センチほどで、長さは四十六メートル。水不足を解消しようと明治中期に住民たちが造った用水施設だ。
小学校の非常勤講師を務める安藤由貴子さんが先ごろ、絵本「美作まんぷ 命をつなぐ用水づくり―明治から現代へ」(農文協)を出版した。コメづくりにかけた先人の苦労や努力が興味深い。
小高い丘にある稲穂地区は、昔から水不足に悩まされていた。一人の指導者が山に降った雨水を集める集水溝を造り、トンネルでため池に流し込む計画を立て、住民に呼びかけた。
工事は三年がかりで農作業の合間を縫って進められた。延長十五キロになる集水溝は夜間にちょうちんの明かりを並べて測量し、トンネルは固い岩盤をげんのうやのみだけで掘った。紹介された地元の言い伝えは貴重だ。
トンネルを「まんぷ」と呼ぶのは、延べ一万人が作業したからとも、坑道のことを「まぶ」と呼ぶのがなまったからともいわれる。今でも集水溝の一部やトンネルは健在で、地元に広がる七ヘクタールの田んぼを潤している。
地元の美作第一小学校は、総合学習として毎年取り組むテーマという。小さな用水だが、先人たちの大きな苦闘が刻まれた立派な産業遺産である。大切に守り伝えてほしい。