【ジュネーブ澤田克己、メキシコ市・庭田学】米国とメキシコで豚インフルエンザへの集団感染が起きたとみられる問題で、世界保健機関(WHO)は24日、両国の患者から採取されたウイルスの遺伝子構造が一致したことを明らかにした。両国での流行が関連したものであることを示唆するもので、WHOは、感染拡大への懸念を強めている。また、米疾病対策センター(CDC)は同日、米国内での感染は、H1N1型の豚インフルエンザで、人から人への感染と断定した。
WHOやメキシコ政府によると、メキシコ国内で豚インフルエンザが原因で死亡したと確認されたのは同日までに20人、豚インフルエンザで死亡した疑いがある人は48人の計68人、感染者数は1004人に上ったとしている。また、米国での感染者はカリフォルニア州で1人増えて6人、テキサス州で2人の計8人となった。
WHOは24日、メキシコ人患者から採取した18人のウイルスのうち12人分が米国のウイルスと同じ遺伝子構造だったと発表。25日にも、インフルエンザ対策のための緊急委員会を招集する。
AP通信によると、米国で見つかったのは、人と鳥、豚のインフルエンザウイルスが混ざった遺伝子構造を持つ新たなタイプ。また、メキシコのコルドバ保健相は24日記者会見し、同国で発生しているインフルエンザのウイルスは、豚が起源のH1N1型であると発表した。H1N1型は米カリフォルニア州などで確認された豚インフルエンザと同じ型。同保健相は「米国もメキシコも豚と接触して感染したのではなく、人から人へ感染した」と説明。また、「この20時間での重症や死亡のケースは減っている」としている。
【メキシコ市・庭田学】メキシコでは24日、行政府が緊急対策を本格的に開始し、国民の間にも危機感が一気に広がった。マスクを着ける人が目立ち、薬局ではマスクの売り切れが続出した。
政府は23日深夜、「新型ウイルスによるインフルエンザの流行」を緊急発表。メキシコ市とメキシコ州の学校・大学は24日から、豚インフルエンザの終息を見極めるまで無期限で休校。メキシコ市内の劇場や博物館は閉館になり、一部薬局では、マスクが1時間で500個売れたという。
政府は25日午前、WHOが新型ウイルスと確認した場合に出す「フェーズ4」を宣言した場合は、麻生太郎首相を本部長とする対策本部を設置することを決めた。河村建夫官房長官が明らかにした。【坂口裕彦】
==============
■解説
感染が拡大している豚インフルエンザウイルスは、研究機関の遺伝子解析で米国とメキシコが共通のものであることが分かった。多くの感染者が豚に接触せずに発症していることから人から人への感染が国境を越えて拡大していると考えられる。毒性などウイルスの詳細が分かっていない段階でパンデミック(大流行)の結論を出すのは早いが、人が免疫を持っていない「新型ウイルス」である可能性があり、警戒が必要だ。
感染症法は新型インフルエンザを「一般に国民が免疫を獲得していない」と定義し、今回のウイルスはこの考え方に該当する。WHOは新型インフルエンザの発生状況を段階(フェーズ)で定義し、世界の現状は「動物から人への感染がある」フェーズ3の段階だ。次の「新型インフルエンザが小さな集団で発生」するフェーズ4の段階をWHOか日本政府が宣言することで、今回のウイルスへの新たな対策が求められることになる。【関東晋慈】
==============
■ことば
豚の間で流行するインフルエンザ。1930年に米アイオワ州で見つかった。A型インフルエンザの一種で、H1N1型が中心。76、88年に米国で小規模な流行が報告され、死者も出ている。
==============
■ことば
WHOは、動物由来で人から人に感染する新型インフルエンザの大流行への警戒度を6段階で示している。現在は動物から人への感染はあるが、人から人への感染は非常にまれな「フェーズ3」。新型インフルエンザが発生すると「フェーズ4」になり、世界的な大流行状態は「フェーズ6」となる。
毎日新聞 2009年4月25日 東京夕刊