JR福知山線脱線事故から、25日で4年がたつ。兵庫県警がJR西日本の山崎正夫・現社長ら幹部9人を業務上過失致死傷容疑で神戸地検に書類送検して7カ月が過ぎ、公訴時効も1年後に迫っている。責任をどこまで問えるのか。刑事処分の判断を受けて、さらに綿密な再発防止策に取り組むべき時期である。
兵庫県警の捜査では、96年に現場の線路を急カーブに改造した際、ATS(自動列車停止装置)を設置しなかった点が重視された。
鉄道事業法では、ATS設置義務は明文化されていなかった。だが、県警は、当時鉄道本部長として設置判断にかかわった山崎社長らが、危険性が認識できたのに事故を回避する努力を怠った、とした。
鉄道のような公共性の高い交通機関には、人為ミスや車両トラブルなどの可能性も考慮に入れ、安全への最大限の手だてを尽くすことが求められるのは言うまでもない。「安全装置さえあれば最悪の事態は避けられた」という被害者感情や一般市民の常識に沿う判断といえる。
JR側は一貫して、危険を予見するのは不可能だった、と主張している。鉄道事故で、運行現場以外の幹部が安全上の刑事責任を問われるのは異例だ。地検の捜査が慎重を極めたのも当然だろう。
地検のアンケートでは、被害者や遺族の大半が処分結果の通知や説明会を求めている。地検は処分を決定すれば直ちに、その理由や捜査で明らかになった安全対策の欠陥を、広く社会全体に開示すべきである。それが市民の関心の風化を防ぎ、教訓をこのような事故の未然防止に生かすことにつながる。
JR西日本は、事故に結びつく危険度を数値化し、安全対策の優先度を決める「リスクアセスメント」を導入した。通勤路線のダイヤ編成を見直し、運転にゆとりを持たせるなど「利益優先」と批判された企業体質の改善に取り組んできた。
だが、社員の意識改革はまだ不十分だ。組織が肥大化して職場間の連絡、連携不足が続き、勤務中の「ヒヤリ」とした体験の報告をためらうケースがまだ多いという。
遺族らで作るグループは、事故の背景を探り、安全の再構築に役立てるために「事故検証委員会」を設置すべきだ、と訴えている。検討に値する提案だ。
国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会の最終報告は、輸送指令員の状況確認方法や速度計の誤差などの問題点を詳細に指摘した。それらを今後の対策にどう取り込むかは、JR西日本だけに任せておくべきではない。被害者や専門家を含めた組織で、改善を提言し、実行を監視する仕組みを作ることが欠かせまい。
毎日新聞 2009年4月25日 東京朝刊