医療事故で息子を亡くしながらも、新葛飾病院(東京都葛飾区)で患者からの苦情や相談の窓口を務め、医療安全の推進に取り組んでいる豊田郁子さんが、富山市であった医療関係者向けの研修会で講演した。参加した医師や看護師ら約280人を前に、患者と医療従事者の信頼関係の大切さを訴えた。
豊田さんの息子理貴ちゃん(当時5歳)は03年3月、強い腹痛で病院に運ばれた。腸がねじれる重症だったが、医師は「軽症」と誤診。入院したが間もなく死亡した。
病院は当初ミスを否定。豊田さんは強い不信感を持ち、同様に医療事故で家族を亡くした遺族らと小児救急の抱える問題を考えるようになり、新葛飾病院に勤務することになった。
この日は県保険医協会が「医療安全管理研修会」として開催。豊田さんは病院側が当初、「最善を尽くした」「医療ミスとはいえない」と主張したのを振り返り「病院の対応で家族は二重、三重に傷つく」と訴えた。
一方、3年後の命日、墓に病院から多くの花束が手向けられているのを見て「医療者も苦しむ。いつまでも恨んでいるだけではだめだ」と考えるようになり、医療者との信頼関係を築くための活動に取り組んだと説明。「より良い医療のため、患者と医療者の対話が重要」と呼びかけ、参加者は真剣な表情で耳を傾けていた。【蒔田備憲】
毎日新聞 2009年4月24日 地方版