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小澤一郎
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スポーツナビ
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フランス発、スペインサッカー界のドーピング疑惑(1/3)
2006年12月12日
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仏紙『ル・モンド』は、バルセロナやレアル・マドリーなどスペイン4クラブのドーピング疑惑を報じた【 Photo:AFLO 】
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「NO、NO、NO、NO」
8日付のスペイン『マルカ』紙に飛び出した見出しである。事の発端はフランス『ル・モンド』紙の7日の記事。同紙は、今年5月に自転車レース界全体を揺るがしたドーピング(禁止薬物使用)・スキャンダルの中心的人物である、スペイン人のエウフェミアノ・フエンテス医師がバルセロナ、レアル・マドリー、バレンシア、ベティスというリーガ・エスパニョーラ1部の4クラブと関係を持っていたと報じ、スペインサッカー界のドーピング疑惑を指摘したのだ。その報道に対して、名指しされた4クラブはすぐに公式HPや会見の席で「NO」の回答をしたため、翌日の『マルカ』紙には「NO」の文字が4回も並んだわけである。
■ドーピング疑惑の3つの焦点
『ル・モンド』紙の記者がフエンテス医師のインタビューを元に書いた記事の内容の焦点は3つある。1つ目は、フエンテス医師がレアル・マドリー、バルセロナ、バレンシア、ベティスの4クラブのチームドクターに対して医療処置の指示を出し、中にはそのクラブの選手が直接フエンテス医師の診断を受けていたという記述だ。同紙が入手しているとされる機密文書には、2005−06シーズンの4チームの“準備計画”(=ドーピングを指す)が記載されているとされ、「その文書内に使われている記号がスペイン警察が明かした自転車レースのドーピング・スキャンダルのものと酷似している」と指摘されている。つまりは、スペインの自転車レース界だけではなく、このフエンテス医師によってスペインサッカー界でもドーピングが行われていたのではないかという疑惑を向けているわけである。
2つ目の焦点は、同紙のインタビューに対するフエンテス医師の回答。記者からの「レアル・マドリー、バルセロナというクラブと仕事をしたことがあるのか?」という質問に対して、「回答できない。もしはっきりしたことを言えば『殺す』と脅されている。すでに3度死の脅迫を受けており、4度目は避けたい」と同氏は回答している。また、「なぜスペイン当局はサッカー界の捜査に乗り出さないのか?」という質問には、「スポーツにはほかの競技より不利な立場に立つものがある。スポーツによっては自衛するために合法的な装備を整え、手を出せないものがある。その上、政治的な立場を侵してしまうような場合も考えられる」と見解を述べた。 説明を加えると、スペインでは現政権サパテロ首相が率いる社会労働党が今年、自転車レース界の薬物問題にメスを入れるために「オペラシオン・プエルト(港大作戦)」と称して、大掛かりな捜査を始めた。当初から、自転車レース以外のスポーツ選手との関わりも疑われていたフエンテス医師が疑惑の中心にもかかわらず、ほかのスポーツ(この場合、サッカー界を指す)に対する捜査が入らなかったことについて、『ル・モンド』紙が今回、医師本人に突っ込んだ形である。このフエンテス医師の回答からすれば、スペインサッカー界の背後に巨大な権力機構が控えているような印象を与えており、より疑惑が深まる内容となっている。
3つ目は、サッカー界におけるドーピング検査やその対策の遅れについての指摘である。フエンテス医師が自転車レース界で行っていたとされるドーピングの主流は、血液ドーピングと呼ばれるもの。その方法は、選手の血液を採取した後に冷凍保存し、酸素を加えて体内に戻すもので、自分の血液を利用するために痕跡が残らずドーピング検査で発覚することがないとされている。 リーガ・エスパニョーラではドーピング対策としては尿検査のみが採用されており、血液検査は行われていない(サッカー界ではワールドカップのような世界大会でない限り、尿検査のみの実施が主流)。フランス国内では、血液学の専門医が血液検査を積極的に各国リーグに導入しないFIFA(国際サッカー連盟)のドーピング対策の遅れを指摘しているようだ。8日付の『ル・モンド』紙に見解を出した専門医によれば、「(今回の事態は)驚きではない。サッカー界のドーピング問題はすでに10年前から周知の事実であり、組織化されたドーピングシステムが存在している」とのことである。こういった意見からスペインのみならず、今後は世界のサッカー界全体に波紋が及ぶ可能性もある。しかし、実際にはFIFAも2002年ワールドカップより血液検査を導入し、今年6月には世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の統一基準も受け入れており、フランスの専門医たちの意見と実態は少し異なる。
<続く>
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