実はもっと接戦になるとみていました。贈収賄事件で前市長が辞職したことに伴う宝塚市の出直し市長選挙。19日(日)の投開票の結果、次点と約5800票もの差をつけて、宝塚市初の女性市長が選ばれました。2期7年に及ぶ社民党選出の衆院議員時代、党派を超えて被災者生活再建支援法づくりに奔走。さらに毎日新聞阪神支局から始まったキャンペーンでも、身体障害者補助犬法の法制化に力強く取り組んでくれた人でもあります。今回は「宝塚市民の代表の立場で出るため」と、離党しての闘いでした。「普通のおばちゃん」を自称する新市長、中川智子さん(61)。さっそく会いに出かけました。
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にこやかな笑顔で「中川節」は始まります。「市民の命や暮らしが一番大切なの」。決して宝塚市だけの問題ではありません。財政危機や医師離れの中で、経営難が続く全国各地の公立病院。診療科目から、手間がかかる「小児科」や、勤務の厳しさから敬遠される「産科」が次々と消えていっているのです。宝塚市立病院でも産婦人科医が全員辞めて、昨年4月から分べんを休止しています。安心・安全の社会づくりの中で、直接、人の命と結びつく市立病院の重要性。中川さんは公約の中で「救急医療を充実させ、産科を復活させます」としています。
勝算はあるようです。阪神大震災(1995年)後に救援ボランティアをつくるなど市民運動の経験豊富な中川さんには、全国各地に「仲間たち」がいます。その中の医療関係者のネットワークを通じて、改革につなげたいというのです。もちろん、財源にしても公共事業などについて「市民目線」で現状分析。そのうえで「痛み」を伴ってでも「市民の命」にかかわることには妥協しない考えのようです。
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誰もが急病になった時、救急車が迅速に病院に運んでくれると考えています。しかし現実はどうでしょうか。全国の病院でさまざまな受け入れ拒否が起きています。でも、それが成り立たない社会を、次世代を担う今の子どもたちに残してはならないと私も思います。最後に中川さんはこう話してくれました。「市役所は市民の駆け込み寺にならないと。そんな地方自治が必要なの」。まったく同感です。【阪神支局長・渋谷卓司】
〔阪神版〕
毎日新聞 2009年4月24日 地方版