iPS細胞:「遺伝子なし」で作成…米独チームが新手法

2009年4月24日 11時38分 更新:4月24日 12時38分

 さまざまな細胞に分化できるマウスの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、遺伝子を細胞内に入れずに作る新手法を米独の研究チームが開発した。遺伝子の影響で起きうる細胞のがん化を防ぎ、治療に使える安全なiPS細胞の作成法につながる重要な成果で、世界の研究者が目指していた「遺伝子ゼロ」のiPS細胞が初めて実現した。24日、米科学誌「セル・ステムセル」で発表した。

 米スクリプス研究所のシェン・ディン准教授、独マックスプランク分子医薬研究所のハンス・シェラー教授らのチームが開発した。

 山中伸弥・京都大教授が開発したiPS細胞は、ウイルスを使って四つの遺伝子を細胞の核に入れて作られた。しかし、遺伝子や導入に使うウイルスが予期せぬ働きをして、細胞ががん化する恐れが高く、遺伝子やウイルスを使わない方法が模索されてきた。

 米独チームはまず、大腸菌を使って4遺伝子から、それぞれたんぱく質を作成。このたんぱく質にアミノ酸の一種のアルギニンを11個つなぎ、細胞膜を透過しやすい性質を持つように改造、ウイルスを使わずにマウスの胎児の細胞内に入れた。

 その結果、たんぱく質が細胞核に入り、iPS細胞ができた。心臓、肝臓、生殖細胞などへの分化も確認。四つのたんぱく質は細胞の核に入って48時間後まで存在するものの、その後は自然に消滅するため、がん化の心配が少ないという。

 チームはたんぱく質(プロテイン)の頭文字を取り、「piPS細胞」と命名した。今後、同じ手法がヒト細胞でも可能かどうか、できた細胞の性質の詳しい検証などの研究が続くとみられる。【奥野敦史】

 ◇iPS細胞

 神経や内臓などさまざまな細胞に分化する能力を持つ万能細胞の一種。山中伸弥・京都大教授らが06年に世界で初めてマウスのiPS細胞を作成したと発表。07年には山中教授のチームと米チームがヒト細胞での成功を発表した。患者本人の細胞から作れるため、拒絶反応の起きない組織を作成し難病治療に使える可能性がある。受精卵を壊して作る万能細胞「胚(はい)性幹細胞(ES細胞)」に比べ、倫理的な問題が少ないとされている。

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