『impetp』

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 不規則な回廊とねじれた紫色の空が何処までも広がるハウルビーストの世界、アルタナ界。
混沌としたその空間の中に、黒真珠の様な鈍い光沢を有した黒い教会が、ポツンとそびえ立っていた。
そしてその一室。支柱と天井のついた厳かなベッドに少女が一人、横たえられている。
赤みのかかった淡い桃色の長髪を扇の様に広げ、スカートの裾を乱しながら胸を上下させて
眠っているその姿は、男性ならば思わず襲い掛かりたくなる程、無防備で扇情的だった。
彼女の名はアルティ。司の魔女にその名を連ねる、炎を操る白焔の魔女である。

「…う、んぅ……」
アルティは身じろぎすると、ゆっくりと瞼を開いた。
「……………………」
まだ、靄のかかってはっきりとしない頭を、身を起こす事でゆっくりと覚ましながら
辺りを見回す。
見慣れない部屋、嗅ぎ慣れない匂い、そして窓から見える、この世のものとは思えない紫色の空。
「ここは……どこ?」
完全に目覚めない意識で考えを巡らせていると、また一つ不可解な事に気付いた。
「えっ、なに私……何で、こんな格好…」
彼女の身に纏っている服は、ウェディングドレスだった。
それも色は艶のあるものの黒そのもので、スカートの裾はよく見かける様な物と比べると
随分と短い。
胸元も谷間の下まで開いて、下手をすると簡単に見えてしまいそうな代物だった。

「なんで私、こんな……一体、どうして…」
全てがちぐはぐな今の状況に混乱しながら、アルティはこれまでの経緯を思い出そうと
思考をフルに巡らせる。
(確か…死者の門からアルタナ界へ向かう途中で…バルバが、現れてそれから……)






 人間の世界とハウルビーストの世界を繋ぐ唯一の場所である『死者の門』。
この門が開かれると、人間達は滅びてしまう。
死者の門を開き人間を滅ぼし、世界に君臨しようとするハウルビーストを食い止める為、
ロラン達は門の向こうへ赴きハウルビーストを生み出す根源を叩こうと、門の手前まで辿り着いたが、
そこで待ち構えていたのは、強大で圧倒的な力を持つ獣の王だった。
戦士達は勇猛果敢にもそれに立ち向かって行ったが、死者の門から魔力を止め処なく浴び続ける
その獣との力の差はまさに天と地。
剣は通らず、矢は弾かれ、魔法は掻き消され、何をしようにも全く歯が立たなかった。
一人、また一人と傷つき倒れ、まともに立っていられる者はアルティ一人となった。
獣の王は目にも映らぬ速さでアルティに近づき、彼女の眼前に掌をかざした。
するとアルティの意識は暗闇へと沈み、獣の王の胸中へと、堕ちた―――



 (…それで、気付いたらここに………私達、負けたのね…みんな―)
「…! そういえば、みんなは!?」




「この場所にはいない」
アルティが声のした方に目を向けると、扉が開き外から異形の怪物が部屋の中へと入ってきた。
血液の様に紅い躯に、全身を黒の体毛で覆う狼の獣人。
ハウルビーストの王、バルバ。
「…ふむ。やはり『それ』を用意して正解だったようだ。よく映えているぞ、アルティ」
バルバはアルティに頭の先からつま先まで、嘗め回す様な視線を向ける。
「バ、バルバ!……此処は一体どこなの!?」 
先ほどの戦闘を思い出し、身震いを起こしながらも気丈な態度でバルバに問い掛けた。
「…ふ、ここはアルタナ界。我の世界だ。人間達の世界は何かと五月蝿いのでな。
ここで儀式を執り行う為にそなたを連れ、戻ってきたのだ」
「な!? それじゃ、みんなは…」
「気を失ったそなたを連れ行こうとしたら、死に損ない共が捨て身で掛かってきたのでな。
一人残らず蹴散らしてやったわ。あの程度では死に至る事はないだろうが…暫くは動けまい。
クククッ、実に面白い見世物であった。そなたにも見せてやりたかった位にな」
「そ、それじゃあ、みんなは生きてるのね……良かった…」
仲間の安否を知り胸を撫で下ろすアルティ。だが、その安堵もバルバの次の言葉に
脆くも崩れてしまう。
「奴らには生きていて貰わねば困るのだ。特にそなたのマスターにはな。
我の従順な伴侶となったそなたの姿を……見せ付けてやらねばならんのでな!」
「え…きゃぁ!」




 その瞬間。
扉の前に立っていたバルバが消え、気が付くとアルティの背後へと回り込んでいた。
そしてアルティの脇や太腿に腕を伸ばすと、さわさわと撫で始めた。
「ちょっと、んっ…いやっ! やめてよ!」
「何故だ? そなたと我が結ばれる為に必要な儀式なのだ。止める必要はなかろう」
言いながらアルティの微かな乳房へと両手を移動させる。
「んっ…ぅあ! い、いや! いやぁ!」
アルティもそれを許すまいと必死に抵抗しようとするが、不思議な事に殆ど力が入らない。
(…そ、そんな! どうして…?)
目じりに涙を溜めながら言う事を聞かない体を動かそうとするアルティを見て、
バルバは嬉しそうに口を開いた。
「体に力が入らぬだろう? この部屋には消魔装置を仕込んであるのだ。
モーガス監獄で使っていた物と同じものをな。
そなたは魔法を唱える事はおろか、満足に動く事も出来ぬ。火傷してはかなわぬからな」
アルティの首筋に顔を近づけ、長い舌で丹念に舐め上げる。
そうしている間も、手による愛撫は休めない。
「は、ぅ……んっ、んんっ! いや、やめてぇ…」
「グルル……そなたの汗は、甘い匂いがするのだな。我の情欲が更にかきたれられる…」
その恐ろしい形相に似合わないゆっくりと滑らかな動作で、首筋から顎、顎から頬へと
バルバの平たい舌がアルティをなぞっていく。
「もう、いやぁ…ぐすっ…助けてぇ…ロラ――んうぅ!?」
バルバがアルティの顔に手を添えると自分へと向けさせ、口唇を奪った。
アルティが想い人の名を口にするを阻むかの様に。
「…むぅ! はぁ、ちゅっ、ちゅぷ、んぁっ、い、いやぁ!…はむっ…んんー!」
器用に口と唇を重ねながら、自分の舌をアルティの口腔へと挿入していく。
アルティはそれを拒もうと唇を閉じるが、乳房を撫でられる刺激に反応して
反射的にバルバの侵入を許してしまった。
「…はっ…はっ…んっ、やらぁ…ちゅっ…ぷぷっ…ちゅるっ…」
バルバが、自分の口内を蹂躙してくる。
舌を絡め取られ、歯茎をなぞられ、唾液をじゅるじゅると吸い取られる。
それと同時に、自分の中に残っている抵抗の意思も、少しずつ奪われていくような錯覚を感じた。
「…はぁ、はぁ……ちゅぶっ、ちゅっ、んんっ……ちゅるる…」
「…クククッ……ちゅばっ、べろ…じゅるるる……」
自分の牙でアルティを傷つけない様に気を配りながら、バルバはアルティの
口腔を隅から隅まで余すところなく堪能していった。





 暫くそうした後、ある程度満足したのかバルバはアルティから顔を離した。
「ククッ…素晴らしいぞ、アルティ…そなたの甘い蜜、存分に堪能させて貰った」
「…ううっ、ぐずっ、ひっ、うぇぇ…」
ハウルビーストに唇を犯された。
自分が想いを寄せるロランとさえ、エンゲージの契約でほんの少し触れ合わせただけなのに。
それなのに。
口唇を舐め回された。舌を、歯を蹂躙された。唾液を吸われた。
この事実が、アルティの心に無数の傷を作っていく。消える事のない傷を作っていく。

 泣きじゃくるアルティを見て複雑な感情を抱いたのか、バルバは顔をしかめたが
その表情はすぐに消えた。
「……次は、こちらの蜜を味わう事としよう」
「…なに、きゃぁ!」
アルティをベッドへ仰向けに押し倒し、裾の短いドレスのスカートを強引にたくし上げていく。
「…ぐすっ、いや……もう、やめて…おねがい……」
先ほどのディープキスで気力を奪われてしまったのか、体に力が入らない事もあって
最早アルティには言葉で拒絶を言い表す事以外、抵抗らしい抵抗も出来なくなりつつあった。
しかし、バルバがそんな言葉を聞き入れる筈もない。
スカートは腿の付け根まで全て捲くられ、ドレスの色と合わせたショーツも
あっさりと取り払われてしまった。
アルティの恥ずかしい場所が露になる。
「!!」
アルティは咄嗟に脚を閉じて隠そうとするものの、バルバが脚の間へ入り込み、
それも叶わなかった。
「…まだ男を知らぬ美しい色と形だ。これこそ我を受け入れる盃として相応しい」
「いや…! おねがい、見ないでぇ!」



 
 ここで、バルバはズボンのポケットから小さなガラスの瓶を取り出した。
中はアルティの髪の色と同じ、桃色の透明な液体で満たされている。
「このままでは、我一人だけが楽しむだけで終わってしまうかも知れんのでな。
少し小道具を使わせて貰おう」
そう言うと、バルバはコルクの栓を抜いて、瓶をアルティの秘処へと傾けた。
桃色の液体が零れ、アルティのソコへと滴り落ち、染みこんでいく。
「…な、なに…? なにしてるの…」
「大した事ではない。そなたが素直に我を受け入れられるよう、魔法水をかけているだけだ。
生殖本能を揺り動かし、性感を増大させる魔法水――媚薬をな」




「え…そ、そんな…! んあっ!!」
瓶の中身を全て注ぎ終えたバルバがアルティの秘処へ舌を這わせた瞬間、
アルティの頭を電流が奔りぬけた。
「あ、あ…こんな…の…んあっ…いや…ふぁぁ!」
バルバの頭を押し退けようとするアルティだが、撫でる程の力しか入らない腕では
どうにもならない。
「ククッ、どうだ? 我が『レンドル』として人間共の世界にいた時作り出した魔法水だ。
これはハウルビースト用に開発した物でな、脆弱な人間の女に使えば、強すぎる刺激で
数分と待たず精神が崩壊する代物だ。
だがそなたはどうだ。今まで味わった事のない快感で頭が一杯だろう?」
「…あんっ! んっ、あっ、ああっ! わた…私は、ハウル、ビーストなんかじゃ…んああ!」
「そなたが幾ら自分を人間だと言い張ろうが、事実が変わる事はない」
「んあ! あう! ち、ちがうっちがうぅ! わた、しは…」
「そなたは我と同じだ」
「おなじじゃ…な…ふぁ! んんっ、んあっ、あん! ふぁぁ!」
「我等が母、聖母エリシアより生み出されたハウルビーストなのだ!」
「ひぁぁ! いや、いやぁ! あっ、あっ! ああっ! んああああああああ!!」

ビクンッ! ビクンッ!

 躯が弓なりに軋み、何度も痙攣を繰り返す。
バルバの攻めに耐え切れず、アルティは強制的に絶頂へと昇らされてしまった。




 暫くした後。
まだ躯の痙攣も治まらず虚ろな瞳で遠くを眺めるアルティの耳元で、
バルバはまるで催眠術をかけるかの様に柔らかく、ゆっくりと語りかけた。
「どうだ…アルティ。素晴らしい景色が見れたのではないか…?」
「…………」

 その通りだった。
自分の下半身から止め処なく流れ込んでくる快感に、躯中が悦んでいた。
死んでしまうかと思う程、激しい絶頂だった。
だが、それを認める訳にはいかない。
認める訳にはいかないが、バルバの問いに何と返していいか分からず、
ただ、バルバから顔を遠ざける事しか出来なかった。

「…クククッ、だが息をつくのはまだ早いぞ、アルティ。これから更に強い悦びを与えてやる…」

 バルバはズボンを脱ぎ捨て、己自身をアルティの前にさらけ出した。
平均的な人間の男性のモノの二倍から三倍の太さはあろうか言う程の、巨大な肉棒。
その禍々しく反り返ったバルバの生殖器は、棒というより、最早柱に近い。
凶悪な形状の男性器を目の当たりにして、アルティは思わず怯えと共に小さな悲鳴を上げた。
「これが恐ろしいか? 心配せずとも良い。先程そなたに使った魔法水には
破瓜の痛みを緩和させる効果も含まれている。痛みなど無いに等しい。
あるのはただ……圧倒的な性感だけだ!」

 言うなり、肉柱をアルティの秘処へとあてがい、一気に突き入れた。




ズブブブブブ!

「!!! あぁ! ひぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐぅ…凄まじい締め付け、だ…。これは、我とて長くは、持たぬな…ぬっぅぅ」
アルティを根元まで貫いた肉柱に、無数の襞と粘膜が絡みついてくる。
アルティの意思とは無関係に、バルバを悦ばせそうと次々に肉柱を撫で上げていく。
(なに、これぇ…! あたまが、あたまがとんじゃうぅ!)
処女膜が破れ、真っ黒なドレスと真っ白なシーツに朱い模様を作る。
しかし、膜が破れた事による痛みは、微塵も感じなかった。
それどころか、一突き、また一突きと肉柱でピストンされる度に、どんどん快感が倍増していく。
子宮の入り口を突かれる度に、頭の中から自分にとって大切な何かが、弾けては消えていく。
「あんっ、ふぁ、んぁぁ! んっ、あっ、あっあっ、あぁん!」
(ああ…だめ、よ…こんな……こんな…ことってぇ!)
欠片程の理性を残した心が、とうの昔に篭絡された躯からの誘惑を必死で跳ね除けようとする。
「グルルル………そういえば、ここはまだ味わっていなかったな」
力強いストロークはそのままに、バルバはアルティのはだけた胸元から覗かせる桃色の突起に
顔を近づけ、片方は指の平でくりくりと弄び、もう片方は舌で転がしながら、
思い切り吸い上げた。
「んぁぁぁぁぁ!!」




それが、とどめだった。

(あぁ…ロラン、ごめんね……もう、わたし……がまんできない…!)
「…ふぁぁ! きもち、いい……きもちいい! んぁっ、はんっ、あっ、んあ!」
「…ククク、クハハハ! そうか、気持ちいいか! ならば更に良くしてやろう!」

ズッ ズブッ ズチュッ ジュブブッ

「はぁん! あぁ! んぁぁ! ふぁぁぁ! いい! んっ、いいよぉ…もっと! もっとぉ!!」
声に出してしまえば、後は簡単だった。
抵抗していた心はあっという間にバルバの色で染まり、快感を得る事しか考えられなくなった。
体はもっと深く繋がり、交わろうとして、バルバの動きに合わせ腰を振り始めた。
「…ぐ、ぅぅ。嬉しいぞアルティ。そなたは我のモノだ。命が絶えるまで我の側から決して離さぬ!
こうして、何度でもそなたを可愛がってくれよう!」
「あぁ! ふぁ! あん…うれし…んっ……ちゅぅ、ぴちゃっ、ちゅば、ちゅるる…」
顔を近づけてきたバルバに、反射的に首へと腕を回し唇と舌で懸命に応えるアルティ。

 ――何故、こんなに気持ちいい事をさっきまで頑なに拒んでいたのか。理解出来ない。
今はもう、バルバと交わす行為の全てが、この上なく気持ちいい――

「じゅるるっ、…ぐぅ! アルティよ、そなたの膣(なか)に我の子種を注ぎ込んでやる…ぬ、うぉ!」
「じゅるっ……んくっ…んくっ…んくっ……ちゅばっ、ちゅ…んはぁ! あぁ! わらひ、も…らめ、んぁ! イク! イっちゃうぅ!!」
ラストに向けバルバが抉る様にアルティを突き立て始めた。
その衝撃に耐えようと、アルティは自らに覆い被さるバルバの背中に爪を立てしがみ付く。
そして。
「…ぬぅ! ゆくぞアルティ! グオォオォォォ!」
「ふぁ! んあぁぁ!! イクッ! イクゥ!! んぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ブビュルッ! ビュブッ! ブビュッ! ビュッ! ビュッ ビュッ… 

バルバの肉柱からおびただしい量の精が溢れ、

 

アルティの膣を、子宮を、アルティの全てを塗りつぶした。







 

「これでそなたは、我の花嫁だ。アルティよ…」

「…………………」

「愛しているぞ…」

「…………はい………旦那様……」













 二ヶ月後。
死者の門の開放は人間と魔女の協力によって止まったが、
かわりに人間、魔女とハウルビーストとの全面戦争が始まった。

 それまでより遥かに強力な進化を遂げたハウルビースト達を前に
人間と魔女は成す術もなく、前線を下げ続けていた。

 滅亡は、すぐ目の前まで迫りつつあった。



「みんな、覚悟はいいな」
カルナヴァの中心部に位置する、封印大陸。
赤茶けた土を踏みしめながら、ロラン達は大陸の頂、死者の門を目指す。

 敗色が濃厚になった今、ハウルビーストを退ける手段は一つ。
やはり、アルタナ界でビーストを生み出し続けるエリシアを討つ以外に方法はなかった。
以前は死者の門からエネルギーを無限に受けるバルバと真正面から闘い、
手も足も出ずに敗れたが、今回はそれに対する策も講じてある。
更に、この二ヶ月でロラン達は鍛錬に鍛錬を重ね十分な力と自信をつけた。
今度こそ、望みはある――――筈だった。






「…やはり貴様らか。待ち侘びたぞ、マスター・ロラン」
「………………」
死者の門を背に立ち塞がる、二つの影。
一つは声の主、バルバ。そしてもう一つは…
「!! アルティ!」
淡い桃色の長髪。羽根状の衣。
二ヶ月前にバルバに連れ去られたきり行方の知れなかったアルティが、そこにいた。
しかし、身に纏う衣は、天使の羽根を思わせる純白ではなく、暗闇程に深い漆黒。
そして目つきも、かつての円らな瞳は影も形もなく、
そこにはロランを虫けらの様に見下す鋭い視線があった。

その姿はまるで、ハウルビーストそのものだった――





 ――バルバに連れ去られ、もう二度と顔を見る事も出来ないと思っていた――
最愛の人との思わぬ再開に興奮し、ロランは堪らず声を発した。
その変わり果てた姿にも気付かず、バルバと寄り添い立っている事にも何の疑問も抱かずに。
「…アルティ。無事で良かった…みんな君を心配していたんだ。…今、助けるから!」
剣を構え、切っ先をバルバへと向ける。
「いくぞ、バルバ!」
深く腰を落とし、距離を詰めようと一歩踏み出した―――その瞬間だった。





 「――イグニスブレイズ」


 ロランの目の前が、白一色に染まった。


「ぐあぁ!!」
次に、全身を串刺しにされたかと思う様な鋭い痛みが襲ってくる。
アルティの攻撃魔法だった。
灼熱の衝撃波に身を揉まれ、炎が消えると同時に、ロランはボロ雑巾の如く宙を舞い、
『二体』のハウルビーストの前へと仰向けに落下した。

体が動かない。
炎に焼かれた全身が、痛みという悲鳴を上げている。

「――な、な…ぜ、アル…ティ…」
「…クククッ、何故、だと? 夫の身を案じ行動するのは妻として当然だろう。違うか、アルティ」
「はい…仰る通りです。旦那様…」
「…な…に…」





耳を疑った。
アルティが、バルバの事を――



 直接、付き合おうと口には出していなかったけれど、気持ちは繋がっていると信じていた。
正式なエンゲージを、恥じらいながらも受け入れてくれた。
自分にだけは、他の仲間と違う笑顔を向けてくれていると思っていた。
それなのに。



 痛みで開かない瞼を必死にこじ開け、バルバとアルティに目を向けた。

……バルバが、アルティの小さな肩を抱き寄せている。
アルティは、目を細めながら俯いていた。心なしか、頬が朱く染まっている様に――見える。

仲間にも目を向けてみた。
皆も、「それ」を見て肝を潰している様子だった。




……

「フフ、情けない姿ね、ロラン。バルバ様とは雲泥の違い。
あなたの様な男に一時でも心を奪われていたなんて、恥ずかしい気持ちになるわ。
ねぇ、ロラン? 私は、バルバ様のモノになったの。私に女としての悦びを教えて下さった、バルバ様のね。
バルバ様は、毎晩私を愛して下さるわ。何度も何度も昇りつめて、私が気を遣るまで。
それに、私の事を妻としてとても大切にして下さるの。
私、今とても幸せよ。あなたといた頃よりずっと、ずっとね」

…耳に届く音が段々と遠くなっていく。視界が霞み、黒くぼやけていく。

「…そろそろ止めを刺させて貰おう」

…………

「アルティは我の子を身篭っているのでな。あまり無理はさせたくないのだ」

…………………

「ククッ、マスター・ロランよ。貴様に我とアルティの子を拝ませてやれないのが残念だ」

………………………

「何、心配する事はない。すぐに仲間の騎士と魔女共も同じ場所へ送ってやる」

……………………………

「さよなら、ロラン」

―――――――――――――――――




そこで、ロランの意識は、完全に途切れて、消えた。



                               END
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2008年11月07日(金) 18:13:28 Modified by ID:t0NCSoN8uQ