千葉市の鶴岡啓一市長が、収賄容疑で警視庁などに逮捕された。市が発注した道路拡幅工事をめぐり、指名競争入札の指名業者に選定されるように便宜を図る見返りに、東京都江東区の土木建築会社から現金100万円を受け取った、との疑いだ。
政令市の現職市長が贈収賄事件で逮捕されたのは、93年のゼネコン汚職での仙台市長以来のことだ。捜査は緒についたばかりで余罪の有無などは不明だが、政治家への億単位のわいろも珍しくないだけに、逮捕容疑の収賄額は巨額とは言いがたい。
注視すべきは、工事区間約300メートル、落札価格4270万円という、ありふれた公共事業が舞台にされたことだ。他の似たような工事でも不正はなかったか、疑ってみなければなるまい。業者間で談合が行われたという供述まであるというから、談合によって高値で落札された分、税金が無駄遣いされたと認識して徹底的に追及する必要がある。
鶴岡容疑者は関係者に現金の授受を認めた上で「このぐらいなら事件にならないのではないか」と話したという。捜査機関も、犯行が処罰するほど悪質か、社交儀礼の範囲か、といった観点から検討し、わいろが収賄側の報酬月額を下回る場合は立件に消極的だった面が否めない。
しかし、わいろは1円でもわいろである。社会全体のモラル低下の影響か、「少額なら許される」と考える公務員が目立ち、工事の発注だけでなく物品の納入、担当者への口利きなどをめぐる贈収賄が、各地各所で横行しているのが実情だ。“プチ汚職”も集まれば、巨悪となる。個別のわいろ額で軽く見るのは禁物だ。捜査機関は立件のハードルを低くし、徹底的に摘発すべきだ。
鶴岡容疑者は自治官僚として、政治資金規正法の改正などに携わり、ざる法化している状況を嘆いていたという。それなのに容疑が事実ならば、市民への重大な背信行為であり、政治献金だとの弁解が通用するとも思えない。地方行政のプロを自任していた分、余計に責任は重い。
指名競争入札制度が、悪用されたことも見落としてはならない。一定の技術力が求められたり、地元業者を優遇する必要から、地方自治体が発注する公共工事で多用されているが、指名業者の選考過程を透明にしないと、不正の温床になりかねない。できる限り、公共事業は一般競争入札に改めるべきだろう。
千葉市はかねがね情報公開度が低いと指摘されており、全国の指定市では最悪とランクづけた市民オンブズマン組織もある。汚職を一掃するには行政が開かれていなければならない。市民の監視を強めることも必要だと心得たい。
毎日新聞 2009年4月24日 東京朝刊