クリスマスなんてぶっつぶせ

イブの夜、新宿での「革命運動」に出くわした

鵜飼 亮次(2006-12-25 15:14)
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 クリスマスイブの夜、街には幸せそうな笑顔が溢れている……ように見える。親子連れ、カップル、みんな誰かと一緒だ。ああ、独り身にとって、この日はどうにも過ごしにくい。輝くネオンやクリスマスソングにすら憎々しい感情を抱きかねなかったとき、人づてに「君みたいな男にピッタリのイベントがあるらしいぞ」とネット上の噂を聞いた。

会場に張られた横断幕 (撮影者:鵜飼亮次)
 「このまま厭世の念に支配されるくらいなら」と向かったのは新宿南口、通称・新宿東南口広場。クリスマスキャロルの流れるなか、通り過ぎるカップルたちと距離を置いたところで、私は「クリスマス粉砕集会」という横断幕を掲げる変な集団と出会った。10人強が集まっている。

 「粉砕」とはものものしいではないか。一体何事かと思い、参加者のひとりに話を聞いた。

 「これは、恋愛をしなければならないという昨今の体制に対してアンチを掲げる集会なんです」

 30歳前後と思われる男性参加者は語った。「革命的非モテ同盟」のメンバーだと名乗る彼は、クリスマスを「恋人の日」たらしめる恋愛至上/資本主義に対し、恋愛と隔絶された「非モテ」階級の同志たる「フラレタリアート」を集め、団結して怒りの階級的鉄槌を与える、などという熱弁をふるった。

 その日正午に秋葉原で配っていたというチラシをくれた。

 「つぶせクリスマス! なくせバレンタイン!」
 「恋愛ブルジョワジーの抑圧に苦しめられる人民諸君!!クリスマスにおける非モテ階級への大弾圧が、今まさに目前に迫っている!」
 「恋愛は暴虐への連鎖である!我々非モテ階級はこの鉄鎖を断ち切り、革命的に前衛的に大衆的に戦わねばならない!」
 「恋愛を断固として否定せよ!!」
 
 新左翼テイストの文体が躍っている。なるほど、クリスマスに孤独を募らせる人間が、傷口を舐めあうのではなく、団結して勝利へ、という発想には恐れ入った。で、この紛争集会は一体何を始めようとしているのか?!

コタツに敷布団は無い。 (撮影者:鵜飼亮次)
 午後8時過ぎ。30メートル四方と見られる東南口広場の東南の壁近くに、組み立てられたコタツが置かれた。そしてコタツの上にはカセットコンロと鍋。「ネギ切ってきましたよーっ」と仲間が近寄ってくると、電気の入っていないコタツにもぐる面々は、「おおっ!」と返事。和気藹々のご様子だ。

 そう、並んだ言葉こそ不穏だが、実際の「活動」は“前衛的”な鍋パーティーだったのだ。コタツを目指して近寄ってきた連中は、「呑み友だちが面白そうな事をすると聞いて来た」というカジュアルなのもいれば、「クリスマス期のホテル代は暴利だっ!」と声高に叫ぶヤツもいた。クリスマスへのアンチを共通点とするバラエティに富んだ男女の「鍋集会」。話をしてくれた革命的非モテ同盟氏も「一般人に危害を加えるつもりは一切無い」と強調し、チラシのなかの「新左翼セクトではありません」との注意書きを私に示した。

 とはいえ、東南口広場は人通りは多く、待ち合わせ場所に使われるような場所だ。単なる鍋パーティといっても、都会の野外空間に突如誕生した不思議な集団に対し、通行人は意外そうな表情を浮かべ、待ち合わせの若者たちは遠巻きに集団を凝視し始めた。集会の効果はまずまずといったところであろうか。

 そんなことを考えていた午後8時45分ごろ、警察官が広場に現れた。鍋パーティーはどうやら無許可の開催だった模様だ。当初、警官は和やかに解散を促がしていた。しかし、こう着状態の過程で、徐々に人数が増加し、空気は穏やかではない方向へとシフト。最終的に「鍋パーティー」はテープで囲まれて「現場」へとなっていった。

 このやり取りを見ようと野次馬が群がる。その中には「クリスマスの主役」であり、連中の「敵」であるカップルの姿も多数見られた。「なんかすごいことになってるねー」などと2人で語り合い、デートコース中のワンシーンとして記憶していた様子も見受けられた。

 参加者と警官の膠着状況が続く午後9時20分ごろ、私は「現場」を後にした。だから顛末はわからない。ただ「革命」勝利への道のりは遠く険しいもののように見受けられた。同志をさらに集めるとともに、活動を法令遵守させることが課題となってくるだろう。次はバレンタインが待っている。彼らの闘争はまだ始まったばかり……か?

 帰りの電車内。誰もいないアパートに戻ろうとする私の目には、「革命」など全く気にかけない幸せそうな男女、男女、男女が飛び込んできた。私はまったくの素面のまま、「恋愛至上/資本主義」体制の下、いつもと変わらぬ1日を終えようとしていた。

一味違うクリスマスイブの光景 (撮影者:鵜飼亮次)


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