2009年4月20日22時29分
和歌山市のカレー毒物混入事件の上告審判決が21日、言い渡される。小さな自治会の夏祭りで4人が死亡、63人が急性ヒ素中毒になった事件から10年8カ月あまり。2人の遺族は夫や娘の写真とともに、最高裁で判決を聞く。「なぜ事件が起きたのか」。その思いは今も消えない。
谷中千鶴子さん(72)がケースに入れて持ち歩くのは、自治会長だった夫の孝寿さん(当時64)と滋賀県長浜市へ日帰り旅行に行く途中の写真だ。
きちょうめん、きまじめ、趣味はカメラ。千鶴子さんの写真はパチパチ撮るのに、自分が写されるのは苦手で直立不動になり、「もういいやろ」とすぐに言う。そんな夫に向けて高速サービスエリアでカメラを構えた。撮影日は98年7月2日。その月の25日に事件が起き、それが最後の旅行になった。
社会保険事務所の職員を定年退職になり、自治会長を引き受けていた。千鶴子さんは「定年後はたくさんの夫婦旅行を楽しもうとよく話していたのに。だから、どこに行くときもお父さんの写真を持っていって、一緒に楽しんでもらっているんよ」と話す。
21日の判決は、「自分がなぜ亡くなったのかわかっていないから、それをお父さんと一緒に聞く」と話す。
長女で高校1年生だった幸(みゆき)さん(当時16)を亡くした鳥居百合江さん(58)は、手帳に挟んで写真を持ち歩く。セーラー服でピース。本が大好きで図書委員をしていた幸さんが貸出係をしていた姿を、先生が撮ったものだ。「一緒に連れて歩いて、いいこと、楽しいことだけを話すんよ」
鳥居さんは傍聴中、幸さんの写真を手でさすったり、ほおずりしたりすることもある。2月の最高裁弁論でも、ひざの上に写真を立てた。「裁判官に幸を見てほしくて。幸はこんな子だよって」