逃れた後も支え必要 仲間との交流、子どものケア・・・
夫からの暴力や支配(ドメスティックバイオレンス=DV)から逃れた女性は、その後の生活にさまざまな困難を伴うことが多い。仕事や子育ての大変さに加え、心の傷の回復も容易ではない。DVは犯罪、という社会の認識は高まり、防止の取り組みも次第に広がっているが、次の課題は「逃げた後」への支援だ。 (野村由美子)
愛知県内に3人の子と暮らす令子さん(35)=仮名=は夫の暴力から逃げた後、相談した支援者に誘われて、DV被害女性が集まるサポートグループに参加した。暴力のことや離婚調停、裁判の話、説明なしに分かり合え、話は尽きなかった。
思い切ってズボンをめくって、脚を見せた。両脚一面に広がる内出血のあざ。自傷行為のあとだった。3人の子の子育てに離婚調停、裁判、収入の不安-。のしかかる重圧に体重は10キロ以上も減り、気が付くと脚を殴り続けていた。
「もう、たたくのやめようよ」。皆一緒に泣いてくれた。「みんなが、私の苦しみを分かってくれた。私一人じゃないと、安心できた」と令子さん。元気を得て新しい仕事を始め「途方にくれている人に私も力になりたい」と話す。
夫から逃げた女性は、追い回す夫に居場所を知られないよう、住民票も作れず、健康保険証も持っていない場合が多い。おびえや不安で外出もままならず、友人、実家とのつながりも途切れ、新たな人間関係を結ぶこともできず、孤立しがちだ。
サポートグループを続けてきたNPO法人フェミニストサポートセンター東海(名古屋)理事長の隠岐美智子さんは「暴力で支配されていた女性たちは自分のことを自分で決める力さえ奪われる。見知らぬ土地で、新しい人生を始めるのは本当に不安だし大変。逃げた後の支援が必要」と訴える。
サポートグループは、進行役のスタッフとDV被害者だけの集まりで、互いの秘密を守りつつ、体験を話したり、離婚調停や裁判、就職活動の情報を交換したりする。ヨガや化粧教室、パソコン講習など、元気になるための手助けも。何よりも「少し前を行く“先輩”や体験を語り合える“仲間”の存在が希望の光になる」と隠岐さん。
今年1月から3月には、愛知県の委託を受けて、女性へのサポートグループと子ども向けのグループを同時に開いた。DVでは子どもも被害者だ。父親の暴力を見せられて、不安や恐怖、怒りの感情を持ちやすいところへ突然の転校。秘密を抱えた生活になる。つらい気持ちをはき出せる場も乏しい。子どもグループでは、胸の内を語ったり、怒りやストレスを発散する遊びを通じ、子どもたちの表情は見違えるほど明るくなっていったという。
DV被害者支援の民間団体でつくるNPO法人全国女性シェルターネット(東京)の担当者も「被害女性は緊急の一時保護を受け、新しい生活を始めた後は、なかなか相談しにくくなる傾向がある。被害の回復を応援する“居場所”が必要」と話す。当事者が望むのは、DVに理解の深いスタッフや子どもをケアするスタッフがおり、体験が話し合え、就労支援などの情報が得られるような無料スペースだ。
2008年1月に改正されたDV防止法の基本方針には、各自治体が「被害者の立場に立った切れ目のない支援を行うこと」を明記している。内閣府は昨年、全国6カ所で被害者の居場所づくりのモデル事業を実施。各自治体でもスタートできるようマニュアル作りを進めている。
3月に発表された内閣府の「男女間における暴力に関する調査」によれば、結婚経験のある女性の3人に1人が、パートナーから何らかの暴力を受けた経験があるという。きめ細かな対策が必要だ。
(2009年4月23日)