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【コラム】

筆洗

2009年4月23日

 本来の用途からすれば、愛読の対象になる書物ではないが、愛読者の数は少なくない。心底からの愛読者の場合、読むだけで旅行など一切しないのだという▼国鉄全線に乗車した体験を綴(つづ)ったベストセラー『時刻表2万キロ』などで知られる宮脇俊三さんが、随筆に残している鉄道の時刻表の愛読者像である。居ながらにして、旅行中と同じような楽しみを味わえる時刻表とは、驚くべき書物だといえる▼JTBグループの時刻表が二十日発売の五月号で、通算千号を達成した。一九二五年の創刊で、ピーク時の八六年には約二百万部を記録した。最近はインターネットの普及などで落ち込んでいるが、それでも約十五万部発行されている▼ここは泉下の宮脇さんに、時刻表の魅力を教えてもらおう。編著の『時刻表でたどる鉄道史』では一つの理由として、一分刻みで並ぶ数字が、列車の正確な運行により裏付けられていることを挙げている▼夜分、部屋でひそかに時刻表を読みふける。あの列車は今、あの地を走っているのだなと、現実味を持って思えることで、旅情がかきたてられるのである。日本の鉄道だから可能なのだろう▼列車はひたすら、目的地に向かっていく。後戻りすることはない。終着駅で降りると、一体何が待っているのか。こればかりは時刻表の旅ではなく、実際の旅に出てみないと分かるまい。

 

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