一本足の蛸 このページをアンテナに追加 RSSフィード

「なぜなら彼女は一本足の蛸です。彼女の足は他の誰にも繋がっていません。人として生まれながら人類や他の生命体の何とも共有する部分を持たないのです。真の孤独とは、彼女のために用意された言葉ですよ」

谷川流『絶望系 閉じられた世界』電撃文庫(2005),p.243

2008-06-11

[]漫画家は「労働者」ではないらしい 21:52 漫画家は「労働者」ではないらしい - 一本足の蛸 を含むブックマーク はてなブックマーク - 漫画家は「労働者」ではないらしい - 一本足の蛸 漫画家は「労働者」ではないらしい - 一本足の蛸 のブックマークコメント

  • 労働基準法第九条では「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義される。
  • 労働契約法第二条では「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義される。
  • 労働組合第三条では「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義される。
  • 最低賃金法第二条第一項及び家内労働法第二条第六項では「労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)」と定義される。
労働 - Wikipedia

労働法のことはよくわからない*1のだが、いろいろ調べてみると、法律上の「労働者」というのは字面通り「労働する者」一般を指すのではなく、正社員契約社員派遣社員などを指すらしい。農林漁家や自営業者などは「労働者」には含まれないようだ。

で、この法律上の「労働者」に含まれない人々の中に漫画家がいる。ある出版社でデビューし、その出版社の仕事のみを受けて生活をし、あたかもその出版社の編集者の部下であるかのように命令・指示を受ける立場にあったとしても、労働法漫画家を守ってくれはしないのだ。

あれ? なんか似たような話があったような……。

あっ、偽装請負だ!*2

参考

追記

例の一件のまとめサイトから辿っていくうちに、あつじ屋日記 漫画家と出版社の問題・小考に行き着いた。漫画家と出版社の間には労働基準法の適用がないということをはっきりと示している。

また、今回の漫画家騒動の原因を解く鍵を「吼えろペン」に見つけたよ - 煩悩是道場では「会社人」という言葉を使って、この問題をわかりやすく説明している。

ところで、本題から外れるが、労働基準法というのは変な法律だ。本文冒頭で引用したウィキペディアの記述からもわかることだが、他の法律で「労働者」を第2条か第3条で定義しているのに対して、この法律では第9条まで定義が出てこない。また、第9条で定義されるのは「労働者」だけで、第10条で「使用者」を、第11条で「賃金」を、第12条で「平均賃金」を、それぞれ別に定義しているのも変わっている*3

*1:できれば専門家の意見をききたい。コメント欄参照。

*2:もちろん違っている点もある。たとえば、偽装請負には人材派遣会社が介在するが、通常、漫画家と出版社の間にはそのようなものはない。

*3:ふつうはひとつの条の各項か各号でまとめて定義する。

ねこの人ねこの人 2008/06/11 10:53 自分の関心にひきつけて恐縮ですが、上記の「本の面白さ」を「過去の思想書の面白さ」と置き換えてみますと、まさに思想史の方法の問題と重なってくるように思います。つまりその思想書が本来備えている多面的な相を再構成することが、思想史のひとつの課題だと考えられるからです。
えっと、何が言いたいかと言いますと、問題関心は大きく共有するものがあります、ということで。

puhipuhipuhipuhi 2008/06/11 19:08 ドラム缶の比喩(つまり3次元を2次元にすること)については、石堂藍という人が似たようなことを言ってます。

( http://d.hatena.ne.jp/piedra/20071016 のコメント欄 piedra 2007/10/18 09:48 を参照ください。)

だからこの比喩にはある程度の普遍性があるのではないでしょうか。
ご参考までに。

trivialtrivial 2008/06/11 20:37 >その思想書が本来備えている多面的な相を再構成することが、思想史のひとつの課題
その発想は私にはありませんでした。そもそも思想書をあまり読まないもので……。でも言われてみれば、思想史というのはそういうものかもしれませんね。
>http://d.hatena.ne.jp/piedra/20071016 のコメント欄
確かに似ているような気がします。文脈や関心が違うので、全く同じということではありませんが、参考になりました。

trivialtrivial 2008/06/11 22:15 有難うございます!
出版社の子飼いの漫画家の場合、(1)(2)(4)(7)あたりが該当しそうな感じがします。

trivialtrivial 2008/06/11 22:16 あ、続きがあったんですね。
結局、漫画家を「労働者」とみなすには条件が不足しているということでしょうか?

genesisgenesis 2008/06/11 22:18 漫画家の労働者性について。この場合は「専属下請け」の問題と捉えるのが適切でしょう。◆ まず問題を整理しておくと,《民法》上,他人に仕事をやらせる契約類型として「雇傭」「請負」「委任」の3種類があります。他方,《労働基準法》に定める規制を受けるかどうかは契約類型ではなく,その実態によって判断されます。この点,果たして当該人物が労働法規によって保護される労働者であるかどうかが問題となったものとして「NHKの集金人」「国立劇場所属のオペラ歌手」「乳酸菌飲料の販売員(←自営業扱い)」「家庭用お掃除モップを交換しに行く巡回員」等が紛争事例としてあります。◆ この問題の処理に当たっては〈使用従属性〉と〈労働者性〉の有無によって判断することとするのが一般的です。これらの概念については1985年の労働基準法研究会報告『労働基準法上の「労働者」の判断基準について』が判断基準を示しており,そこでは(1)仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無,(2)業務遂行上の指揮命令の有無,(3)勤務場所・勤務時間における拘束性の有無,(4)労務提供の代替性の有無,(5)報酬の労務対称性を,(6)事業者性の有無(機械・器具を誰が所有しているか,報酬の額が一般従業員に比して著しく高額ではないか,業務遂行上の損害に対する責任を誰が負っているか),(7)専属性の程度――を総合考慮して判断するのが妥当であろうとされています。また,最高裁が判断を示したリーディングケースとして,「自分でトラックを所有している運転手」の労働者性が争われた横浜南労基署長(旭紙業)事件(最一小判平8.11.28労判714号14頁)があります。◆ それで漫画家の場合に当てはめて考えてみた場合ですが,(3)自宅で作業をしているような場合には場所的・時間的拘束の度合いが弱い,(5)原稿料が労働時間に比例するような報酬体型になっていないこと等はマイナスの考慮要素でしょう。

genesisgenesis 2008/06/11 22:24 すみません。誤字を修正するため書き換えをしたもので,コメントの順番が入れ替わってしまいました。

genesisgenesis 2008/06/11 22:40 それでですが,お気づきのように「マンガ家であれば労働者として扱われることはない」ということではありません。例えば某ホロホロなライトノベル作家さんなどは出版社が提供している場所を仕事場にしているようなのですが,その就労実態によっては労働者として扱われる場合もあり得るだろうと思われます。多摩坂さん(id:m_tamasaka:20080610)はタイムキーパーないしプロジェクトマネージャーとしての編集者という側面を強調しておいでです。たしかにそれらの事情は使用従属性をプラスに持っていく考慮要素でしょう。けれども,先に述べたようにマイナスの考慮要素が強いので,総合判断すると労働者性は否定される方向に傾くだろうと思われるところです。

trivialtrivial 2008/06/11 22:56 なるほど、なんとなくわかってきました。
心情的には、ある種の漫画家(実社会のことをよく知らない十代でデビューして、精神的にも社会的にも出版社に対して従属的な立場にある人)にはある程度の法的な保護が必要ではないかとも思うのですが……。
ところで、某ホロホロなライトノベル作家さんは、仕事場で富士見の人と付き合いがあるようなので、出版社が提供している場ではないと思います。

genesisgenesis 2008/06/11 23:17 あ,そうですか。では「仕事場」の例は仮装事例ということで……。◆ 補足しておくと,出版社と作家の間には立場の強弱(交渉力の差異)があるにしても,それは必ずしも労働法の枠組みで保護しなければならないということではないでしょう(一例としては,独占禁止法では「不公正な取引方法」を排除しています)。◆ おそらくtrivialさんが気に掛けておられる事柄は,たとい漫画家を労働者であると位置づけても解決しないことなのではないかと思います。ここで労働法から知見を提供するならば,漫画家組合を立ち上げて集団性を獲得し〈連帯〉を模索することによって解決を目指すべきことではないか,と。

trivialtrivial 2008/06/11 23:45 >漫画家組合を立ち上げて集団性を獲得し〈連帯〉を模索することによって解決を目指すべき
たぶん、それが最良の方法なんでしょうね。ただ、声優業界で永井一郎たちが中心となって団結して待遇改善を求めたら、ギャラはあがったものの仕事が専門学校出の若手に流れたという話があります。漫画家の場合にも同じようなことがおこらないとも限らないのが悩ましいところです。

m-matsuokam-matsuoka 2008/06/12 00:16 漫画家は中小企業の社長です。出版社に雇用されているわけではなく、対等な立場なので労働基準法は適用されません。一企業にしておいたほうが税務上も有利ですし、印税処理も企業間でのやりとりになるので便利になります。
某ホロホロなライトノベル作家さんは、一社長として、他の社長と共同事務所を借りているのだと思います。

the48the48 2008/06/12 01:54 詳しく知りませんがサラリーマンで漫画家っていないんですかね?
デザイナーなら多くいるのですが

yuuichiyuuichi 2008/06/12 17:57 労働基準法の成り立ちをいうと、この法律は戦後、戦前の「工場法」を廃止し、それまでに蓄積されされた判例と通達をとりこみ、対象を、工場労働者(ブルーカラー)だけではなく、ホワイトカラーに拡げて新規に成立したものです。典型的な対象としては、男子は炭鉱労働者、女子は製糸工場の女工です。
この法律の成立時には、対象となる労働者は「働いている人」の2割に満たない人が、対象でした。つまり、国民のほとんどにとって何の関係もない法律でした。現在、この割合が8割まで増えましたが、依然、「働いている人」の5人に一人にとっては、なんの関係もない法律です。
なんで、ネットでは、「働いている人」=「労働基準法の上の労働者」となってしまったのか・・・・。

trivialtrivial 2008/06/12 20:01 >漫画家は中小企業の社長
まあ、ほとんど個人企業で、たまに法人化している人がいるくらいだとは思いますが……。出版社と対等かどうかといえば、実際上はかなり問題があると思います。
>サラリーマンで漫画家
サラリーマンと漫画家の二足のわらじを履いているというのではなくて、サラリーマンとして漫画を描いている人はほとんどいないんじゃないでしょうか? いたとしても、いわゆる「漫画家」の範疇には入らないのではないかと思います。
>労働基準法の成り立ち
なるほど、工場労働者プラスアルファを対象とした法律でしたか。
法律上の「労働者」が一般的な用法と異なっているため、「働いている人」=「労働基準法の上の労働者」という誤解が生まれるのでしょうね。「特定労働者」とでもしておけばよかったのかも。