2カ月の議論で果たしてあるべき「国家像」が浮かぶのだろうか。日本の将来の方向や基本政策を各界の有識者が検討する政府の「安心社会実現会議」が発足した。
少子高齢化など高まる国民不安に答えるために社会保障を中心に未来の国家像を示す、との問題意識は賛成だ。ただ、肝心の麻生太郎首相の理念がどうも見えない。これでは、具体的イメージを国民に打ち出せないまま、消費税増税への地ならしに終始することもあり得る。やはり、本来は政治家が腰を据えて議論すべきテーマである。
新設された会議は小泉構造改革が進めた「小さな政府」路線や、市場重視主義に伴うひずみが国民の将来不安を強めていると分析し、医療、年金などの社会保障や安定財源の確保に向けた将来ビジョンを描くことが目的だ。発足を主導したのは消費税率引き上げに積極的な与謝野馨財務・金融・経済財政担当相だ。小泉改革をリードした経済財政諮問会議は、構造改革路線が基本だけに、別の会議の方が麻生首相が掲げる「中福祉、中負担」の具体化には得策との要素もあるようだ。
衆院選が迫るにつれ与野党の議員心理が落ち着きを失い、長期的視野に立つ議論がなかなか聞かれないのが現状だ。それだけに与謝野氏が言う「超然たる立場」で国家ビジョンを論じることに異存はない。特に、今回は国と地方の関係の整理や、地域共同体のあり方も俎上(そじょう)に載せようとしているのは理解できる。
ただ、会議のメンバーでもある首相自身が何を描こうとしているか、理念や哲学が示されないのでは困る。各界から幅広く論客を募っても、議論が丸投げでは論点が散漫になる懸念はぬぐえない。6月に総論の報告書をまとめ、経済運営に関する09年の「骨太の方針」に反映させる方針だが、消費増税への布石狙いとの見方もある。財政安定に向けた議論はむろん重要だが、福祉、地域社会のビジョンが貧弱では説得力を持ち得まい。
また、小泉構造改革の総括も必要だ。初会合では小泉改革の見直しを促す発言が相次いだが、方針転換ならば明確にアナウンスすべきだ。今後の諮問会議とのすみ分けや「骨太の方針」の位置づけも課題だ。改革の何を引き継ぎ、何を見直すかを具体的に議論しなければならない。
次期衆院選を半年以内に控えての発足だけに、与党には報告書の一部をマニフェストに取り入れるべきだ、との意見も出ている。しかし、こうしたビジョンはそもそも国民から選ばれた国会議員が主導し、有権者に示すべきではないか。待たれるのは政党の奮起である。
毎日新聞 2009年4月23日 東京朝刊