昨年度の貿易収支が7253億円の赤字となった。貿易収支の赤字は第2次石油危機により原油の輸入価格がふくらんだ80年度以来28年ぶりのことだ。
金融危機の影響で自動車や家電製品などの耐久消費財の需要が急減している。外需への依存度が高い日本の製造業はその直撃を受け、それが貿易統計にも表れた形だ。
当然、企業業績の悪化は避けられない。大幅な赤字を計上し、自己資本が減少すると、銀行の融資基準からはずれるところも出てくる。
大きな雇用を抱えた企業が倒産すれば、影響は大きい。そうした状況を回避するため、資本不足を公的資金で補えるようにするための産業再生法改正案が成立した。
従業員数に加え、売り上げや自己資本の減少の程度などの要件を満たした企業に対して公的資金を供給する。企業が発行した優先株や優先出資証券を日本政策投資銀行が引き受ける形をとる。
現在のところ半導体大手のエルピーダメモリやパイオニアといった企業の名前があがっている。
エルピーダはDRAMと呼ばれるパソコンのメモリー用半導体で唯一となった国内メーカーだ。半導体は、製造装置や部材の供給など参加企業が広範に及ぶ。日本の半導体産業全体の競争力維持の観点からも、国内のDRAMメーカーの存在が必要という見地もあるだろう。
パイオニアはカーナビゲーションで高いシェアを持ち、雇用も大きい。プラズマディスプレーで競争に敗れ、撤退のコストがかさむ。今回の経済危機の影響は甚大だ。
ただし、政府が一般の民間企業に対し公的資金を使って資本注入を行うのは、異例の措置だ。それ以外に、融資という形で政投銀に支援を求める企業も相次ぐとみられる。
しかし、政府の支援が一時的な延命策に終わってしまい、ツケが国民の負担となる事態は避けなければならない。協調して出融資を行う民間銀行を含め、経営再建に向け、関係者の尽力を期待したい。
貿易収支が赤字に転じたのは、外需が輸入の減少を上回る形で落ち込んでしまったからだ。今年に入ってからは、2、3月の月次では黒字になっている。ただし、日本の製造業の国際競争力が現状でどのような位置にあり、そして、これからどうなっていくのかは、将来の日本の国力につながる問題だけに気になる。
各国で政府が民間企業の支援に乗り出している。しかし、衰退産業の温存ではなく、競争力の強化につなげることが重要で、日本の政府による企業への支援策も、その視点を忘れてはならない。
毎日新聞 2009年4月23日 東京朝刊