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「誰が小人を殺したか?」小人プロレスから見るこの国のかたち

2009年04月22日11時00分 / 提供:日刊サイゾー

日刊サイゾー
「誰が小人を殺したか?」小人プロレスから見るこの国のかたち
 今から7年前の2002年、東京の片隅で1人のレスラーが誰にも看取られることなく息を引き取った。リトル・フランキー、身長はわずか112cm。彼の死によって、日本から小人プロレスは完全に消滅した。彼こそが、最後の「小人プロレスラー」だったのだ。

小人プロレス、在りし日の激闘の様子はこちらから

 今の20代には、「小人プロレス」を観戦したことがある人はほとんどいないだろう。そんな、失われたエンターテインメントを追ったノンフィクション『笑撃!これが小人プロレスだ』(現代書館)が先日上梓され、各方面で話題となっている。果たして、小人プロレスとは何だったのか、そしてなぜ小人プロレスは消滅してしまったのか、著者であるルポライターの高部雨市さんに話を聞いた。

──まずは、小人プロレスと高部さんの出会いを教えてください。

「60年代はじめ、子供のころにテレビでアメリカの小人プロレスを見た記憶があります」

──では、その小人プロレスをルポルタージュのテーマとして取り上げようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

「以前、大道や路地で働いている人を取材していたんですが、その時にいつか小人プロレスをやってみたいと思ったんです。私が上野生まれということもあるんですが、小さい頃にはチンドン屋や紙芝居、猿回しとかいろいろな人が歩いていたし、街には必ず珍妙で不可思議なスターがいました。そういう人に自分が惹かれてしまうんですね」


●笑いと美技 女子プロレスを凌ぐ人気


──小人プロレスは、全日本女子プロレスの興行と共に行なわれていたそうなのですが、小人プロレスとは、女子プロの余興のようなものだったのでしょうか。

「いえ、はじめは小人プロレスがメインだったんです。女子プロもかつては今のような体育館興行ではなく、キャバレーやストリップの幕間で行なわれていました。そこには女子レスラーと小人レスラーのミックスタッグがあったりね。けど、マッハ文朱が出てきて、ビューティ・ペアやクラッシュ・ギャルズが登場し、徐々にメインは女子プロに移っていきました」

──実際に高部さんが観戦されていて、当時のお客さんの反応はどのようなものだったのでしょうか?

「初期の頃は小人レスラーの人数も多く、ものすごい盛り上がりがありましたね。『ドーン』という笑いが起きるんです。けれどだんだんレスラーの数が減ってきて、1対1の形になっていき......。80年代に女子プロがアイドル的な人気を博すようになると、ファンもティーンの女の子が圧倒的だったので、小人の試合になるとトイレなどに立ってしまうようになってしまいました。そうすると小人レスラーのテンションも下がってしまいますよね」

──『笑撃!これが小人プロレスだ』の付録DVDを見ていて、こんなに笑い声が起きていることにビックリしました。もし今、小人プロレスをやったらこんなに笑いが起きるでしょうか。

「やってみないと分からない部分はありますが、笑いそのものの質が変わってきていますし。ただ、当時は子供たちが素直に笑ってましたね。大人になって意識が芽生えてしまうと、なかなか笑えないですよね。『笑っちゃいけないんじゃないか』とかそういう感情が入ってきてしまいますから」

 エンターテイメントとして、少なくないファンを獲得していた小人プロレス。しかし、笑いだけが小人プロレスの魅力だったわけではない。

──女子プロレスラーの長与千種さんが「小人プロレスは技として美しい」と話していましたが、その技術も小人プロレスの魅力のひとつだったんでしょうか?

「とりわけリトル・タイガーという選手は圧倒的なすごさでしたね。ポーンと飛んだ時の高さが違うんです。そしてそのまま技を決める。そういう意味で言えば、女子プロの選手たちもリトル・タイガーの動きに憧れていたっていうのはあるんじゃないでしょうか」

──小人プロレスでは猛練習はもちろん、普通のレスラーとは違った動きというのも求められますよね。

「小人プロレスラーが集まるミーティングの席では、男子プロレスと同じ技を出すと怒られるんですよ。『どうして男子プロレスと同じ技を使うんだ』って。小人にしかできない技をやることが彼らのプライドなんです。自分たちにしかできないプロレスを常に考えていましたね。そして、フェイントをかけて笑いを取るということも含めて彼らの技だったんですね」

──現在では、普通のプロレスでもレフェリーと絡んだりする場面を目にしますが、そのようなコミカルな動きをプロレスに取り入れたのは小人プロレスが最初だったそうですね。今では逆に、プロレスが小人プロレス化しているようにも思えます。

「先日、ターザン山本さんと吉田豪さんとのトークショーイベントにゲストで呼ばれたんですが、ターザンさんもやはり客いじりやレフェリーと絡んだりなど、現代プロレスの小人プロレス化を話していました」

──高部さん自身、小人プロレスの試合の中で一番印象に残っているシーンはどのようなものでしょうか?

「レスラーが相手をロープに投げ出す場面がありますよね。普通、ロープにあたってポーンと跳ね返ってくると誰もが思います。けど、リトル・フランキーは違って、ロープの間にくるりと身体を回転させて戻ってきちゃうんですね。その時はすごい驚きがありました。誰もが思っている『当たり前』をひっくり返した時の感嘆、それはもうゾクゾクと来ますよね」

──まさにエンターテインメントですね。

「そうです。天草海坊主というレスラーがいたんですが、彼は『自分の技に笑って笑って1人くらい死ぬ人がいれば本望』と言っていたんですね」

──プロレスラーというよりも芸人さんの言葉のような(笑)。

「けど、彼らの試合結果はスポーツ紙には決して出ていないんです」


●会場を熱狂させても テレビでは"なかったこと"に


 その体格を生かした究極のエンターテインメントとして、多くの観客を沸かせてきた小人プロレス。しかし、そんな彼らにも厳しい差別の視線は向けられていた。

──小人プロレスに対する偏見や差別というものは、どのようなものがあったんでしょうか?

「80年代には毎週テレビで女子プロの試合が中継されていました。けれども、小人プロレスの部分はきれいにカットされていたんです。会場で観戦した人はいるのに、テレビには映らない。まったく存在していないという形に編集されていました」

──不思議な話ですね。

「日本のテレビの中では自主規制というんですか、そういうことをやり続けていた。『8時だョ!全員集合』(TBS)でも、小人が登場する回はあったものの、投書が来たらそれで終わりです。『どうしてああいう人を出すんだ』『ああいう人を笑い者にするんじゃない』って。小さな芸人の白木みのるさんが言っていたんですが、逆に言うと、そういう人たちこそが小人を見たくないんです。『かわいそうだから』っていう方便を使って、まさに『見せかけのヒューマニズム』ですね」

──小人が出演しづらい状況の一方で、例えば『五体不満足』(講談社)の著者であり、障害者の乙武洋匡さんはテレビに出演できますよね。

「結局、小人者は障害者と健常者の狭間にいるんです。あえて言えばフリークスですよね。そういう人たちの存在を認めたがらない。暗黙のうちに処理しようという、日本的な社会にはそういう所があるんでしょう。この本の底本『異端の小国』を出すにあたっても、数多くの出版社を廻ったんですが、ほとんどダメでした。それも、人権を扱う本を多く出している出版社ほどダメだったんです。戦後民主主義的な縛りの中では、小人者は表に出しちゃいけないという雰囲気があるんじゃないかな」

 小人プロレスに対する差別を通して見えてきた「見せかけのヒューマニズム」という日本の現状。特に、巨大メディアであるテレビにおいては、その存在は顕著だ。

──そのようなメディアの状況というのは、どのようにして生まれてきているんでしょうか?

「テレビということでいえば、放送局そのものに小人を出演させないという方針があるわけじゃないと思うんですね。ただ投書や電話が掛かってきたら面倒だからと、どんどん自主規制して行くわけです。放送を行えば何らかのクレームなんか来て当然なんですけど、そんな思い込みが先行して小人の存在を隠蔽してしまう。そういう明文化されない"雰囲気"が社会全体にありますよね」

──投書をする人は「小人のため」を思って言っているわけですよね。それによって小人は活動の場所を奪われて、失業してしまう。ありがた迷惑ですね。

「そういう投書をする人はきっと自分が完全だと思っているんでしょう。自分自身はマイナスのところがない、と無意識のうちに思っていて。よく『自分は普通だ』と言いますよね。きっとあの感覚なんだと思います。僕は19歳の時にオーストラリアに留学したんですが、当時のオーストラリアには黄色人種だというだけで同じ空気を吸いたくないという人がいたんですね。彼らにとってみれば黄色いのは気持ち悪い。だから、自分では普通だと思っていても、ある人から見れば『気持ち悪い』『ここにいてほしくない』となってしまうんです」

──テレビだけでなく、社会全体がますますそういった方向に進んでいるように思えますが。

「例えば『派遣切り』、『ホームレス』といった人にも、そうなるまでにプロセスがあるはずなのに、誰も想像しないですよね。その結果だけを見て『自己責任』ということで片付けてしまう。そうすればすっきりするんですね。現実にはいつ自分がそうなるかは分からないのに、それを考えたくない、見たくないという風潮が社会に蔓延しているように思います」

──社会的には「小人症」は障害者として扱われているんでしょうか?

「障害者手帳を取ろうと思えば取れるんですが、なかなか等級の高いものは取れないですね。ただ、ある年齢になると軟骨栄養症の人は脚が湾曲しているので歩けなくなってしまうということが多いですね。小人レスラーたちは障害者手帳をいらないと言っていたんです。彼ら自身の中には障害者じゃないという考え方があり、現役の時は取りませんでした」

──海外でも小人に対する差別は変わらないんでしょうか?

「かつて、日本の小人プロレスラーたちが韓国に行ったんですが、韓国の人も日本と同じような目で自分たちを見ていたと言っていましたね。メキシコには空中殺法をメインとした本格的な小人プロレス「ミニ・エストレージャ」があるんですが、市民権を得ていますね。メキシコでは小人のことを『ラッキーボーイ』と呼ぶんです。人と違うのはラッキーだという考え方があるんですね」

──日本とはまったく逆の考え方ですね

「日本では『小人』は差別用語として扱われていて、小人プロレスのことも『ミゼットプロレス』と言い換えています。けれどもアメリカでは『ミゼット』はよくない言葉で『リトルピープル』と言い換えている。つまり、日本では『小人』がダメなら『ミゼット』でいいじゃないか、という曖昧な所に落ち着かせて、本質的な問題については考えていない。ここにこの国の実体が現れていると思います」
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])


●笑撃! これが小人プロレスだ
小人プロレスの歴史を紐解きながら、小人に対する理不尽な差別や、その差別を生み出す社会のあり方までをも記した一冊。付録のDVDには客席から笑い声が沸き立つ試合の模様も収録している。
発行/現代書館 価格/2,600円(税抜)


●高部雨市
たかべ・ういち。1950年、東京生まれ。ルポライター。社会の表層から、置き去りにされた人々のルポタージュを描く。著書に『私風俗』『風俗夢譚』『走る生活』など。現在は「日本人とマラソン」をテーマに取材中。近影はこちら


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