スクールバスの遅延で開始20分遅れが○校。強風のため繰り下げが○校……。文部科学省での記者発表はこんな報告から始まった。21日に一斉に行われた全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の実施状況である。予定通りできなかった学校・学年・学級の件数などが挙げられた。この細かさ。「一律一斉」の堅苦しさを象徴しているかのようだ。
小学6年生と中学3年生全員を対象に国語と算数・数学で毎年行われるこのテストは3回目。「理念に合わない」と過去2回参加しなかった愛知県犬山市が加わり、国公立100%実施となった。文科省は喜色を禁じ得まい。全自治体が「例外なく受ける」形が実現した。
だが一方で、私立は「必要ない」などと次々に離脱し、参加率は5割を切った。結果(成績)の扱いについては地域で差異があり、序列化の懸念やそれをめぐるあつれきも起きている。そして何より、今回だけでも50億円以上かけて実施するこの全員参加方式の一律テストに、実際どれほどの学力向上効果があるのか。
全国の子供たちの学力水準や傾向、改善ポイントについては抽出調査で十分解析できると専門家は指摘する。全員参加方式(悉皆(しっかい)調査)だと、受ける子供の数が膨大(今回は計234万5000人)になり、ぶれのない採点処理のため複雑な設問はしにくくなる。また、今回、時間不足による無解答を減らすことを理由に設問や文章も量を減らした。
当初懸念されたように、全員・全学級・全学校参加のため成績(正答率)が全体の中に位置づけられ、数値順位に強い関心が向いている。1960年代に競争過熱で廃止になった旧テストの弊害を避けるため、文科省は市町村別や学校別成績の公表を禁じている。だが、都道府県や地域によっては、知事らが公表をバネに競い合って学力向上を図るべきだとして教育委員会などと対立、一部公表に踏み切るところも出てきた。
学力テストの主目的は実態を解析して全国の学校現場に伝え、学力補強や勉強嫌い解消のポイントを見いだすことにある。これで序列づけをする意味は本来ない。そして、序列化の不安を抱かせたり、テスト前の練習問題解きなど準備を促すような全員参加方式ではなく、抽出調査の方がより合理的だ。
子供たちに、知識、思考、判断、想像、表現の力と情操豊かな真の学力向上を望まぬ人はいない。全員参加規模ゆえの制約やあつれきのない方式に切り替えることに、ためらいは無用だ。その結果の活用にこそ腐心すべきではないか。既に各地で行われている独自の学力テストと組み合わせる工夫もその一つだろう。
毎日新聞 2009年4月22日 東京朝刊