米国のブッシュ前政権が離脱した地球温暖化防止のための京都議定書に、オバマ政権は復帰しないようだ。複数の米政府当局者が、復帰しない方針を初めて認めた。
先進国が一致して地球温暖化防止に取り組む議定書の成功には、米国の参加が不可欠だった。日本政府などは、米国に復帰を強く求めていた。
オバマ大統領は一月、就任間もない演説で「地球温暖化をこのまま放置すれば、激しい紛争や大嵐、海岸線の後退など後戻りできない破局を招きかねない」と危機感を表明し、ブッシュ前政権との違いを強調した。
エネルギー・気候変動担当の大統領補佐官も創設し、問題解決に向け本腰を入れる姿勢を明確にしていた。
議定書への復帰については態度をはっきりさせていなかったが、温暖化対策を重視する一連の言動で復帰への期待感は大きく膨らんでいた。残念としか言いようがない。
米国は先進国の中で最大の温室効果ガス排出国である。復帰の可能性が消えたことで、議定書の効果低下は否めない。
議定書は地球温暖化防止のための気候変動枠組み条約の下で、一九九七年に京都市で採択された。先進国に温室効果ガスの排出削減が義務づけられ、二〇〇八―一二年の排出量について一九九〇年に比べ日本は6%、米国は7%の削減義務を負った。だが、米国はブッシュ政権になって議定書に批判的な産業界の意見を考慮して条約批准を拒み、議定書から離脱した。
オバマ政権が復帰しない背景には、〇七年の排出量が基準年に比べ16・7%も増加した厳しい現実があるようだ。これから復帰しても、7%の削減義務達成は事実上困難なため、参加を見送ったとみられる。
さらに批准の承認権限を持つ上院の支持が見込めないこともある。オバマ大統領のリーダーシップが注目されたが、積極的に対応しなかった。
国連などは今年末にコペンハーゲンで開く条約締約国会議で、次期枠組み(ポスト京都)の合意を目指している。オバマ政権は議定書に復帰しない代わりに、議定書で排出削減義務を課されなかった中国やインドを加えた新たな枠組みづくりを主導する方針のようだ。
次期枠組みの重要性は一段と高まっている。米国はくれぐれも自国に有利な体制を目指すのではなく、率先して排出削減に取り組むよう説得力のある対応を望みたい。
二〇一六年夏季五輪開催を目指す東京への国際オリンピック委員会(IOC)評価委員会の現地調査が終わり、評価委は「世界一コンパクトな五輪」などを計画に盛り込んだ東京の開催能力に評価を示した。招致レースの最初のヤマ場は無難に切り抜けたといえよう。
一九六四年以来、半世紀ぶりの五輪招致を目指す東京の“売り”の一つは、半径八キロ圏内に競技会場の95%が収まるというコンパクトさだ。評価委のムータワキル委員長は総括の記者会見で「東京のビジョンやコンセプトに大変感銘した」と述べ、高評価を与えた。
評価委メンバーは四日間で計二十六カ所の会場予定地を視察。東京側は渋滞対策に万全を期すとともに、最先端技術を駆使したゴーグル型映像装置を使って仮想の完成予想映像を披露するなどアピールに努めた。
東京の招致委員会会長を務める石原慎太郎都知事も「国民へのビッグなプレゼントに一歩近づいた」と手応えを感じた様子だ。ただ評価委の言葉に過度の期待を持つことはできまい。評価委は、調査結果を基に詳細な報告書をまとめるが、実際の投票行動には政治的判断も絡むとの見方が根強いからだ。
招致レースはこれからが本番である。オバマ大統領を前面に押し出すシカゴ(米国)、南米初の開催を目指すリオデジャネイロ(ブラジル)、IOCのサマランチ名誉会長の後ろ盾があるとされるマドリード(スペイン)。いずれも強力なライバル都市といえよう。
候補四都市は六月にスイス・ローザンヌでプレゼンテーションを行い、十月のIOC総会の投票で開催都市が決まる。試されるのは「総合力」だろう。国内世論の盛り上がりが原動力になることは言うまでもない。
(2009年4月21日掲載)