2009/4/16
#.1 好きだと言えずにこの恋は [未完] 唄を聞かせて
5人台本:(2:3:0 or 2:2:1)
山茶月音(つばきつくね/♀):主人公。18〜20歳。大学生。
御崎大地(みさきだいち/♂):月音の片思い相手。21〜22歳。彼女に「ダイ」と呼ばれている。
ケイ(♀):御崎の彼女。関西弁推奨。17歳、高校二年生。
葛西夷墨(かさいいずみ/♂):喫茶店(アルバイト先)のマスター。29歳。月音の従兄で、勤務時間外は「いーちゃん」と呼ばれている。
ナレータ(不問/しかし女性推奨)
客(不問/夷墨ないしナレーターと被り推奨)
山茶月音(♀):
御崎大地(♂):
ケイ(♀):
葛西夷墨(♂):
ナレータ(不問):
客(不問):
※[]は作者からのお願い書きです。
〜act〜
[N] :某喫茶店、開店時間前。当然未だ立ち寄る客はない。
そんな店の扉を押す一人の青年がいた。
SD:扉の開く音。
大地:おはようございまー…お、山茶。おはよ。
月音:ええ、おはようございます御崎さん。
[できれば、かなりの他人行儀でお願いします]
大地:(溜息)…その「作ってます」って笑顔、どうにかならないのかね。
月音:何のことやら。だいたい、接客に笑顔は付き物でしょう?
大地:いや、そうだけどね…
月音:何白けた顔してる暇があったらさっさと支度済ませましょうね、もうすぐ営業時間ですよ?
大地:…はいはい、了解ですよー。
給料泥棒にならないためにも、山茶月音ちゃんみたいににーっこり笑いますー
…ほいこれ。
月音:はぇっ、ちょ。何投げ…飴?
大地:そ、飴ちゃん。それでも食べて、可愛いお顔してねー。
月音:……。
月音(M):余計な気、回さないでよ。
月音[N]:世の中は甘くない。そんなの当たり前。
ただ、それを乗り越えるか…嘆(なげ)いて流されるか…
常に選んで生きていく。私の場合は…
好きだといえずに、この恋は
[ここまで月音役様お願いします]
SD:ドアベルの鳴る音
月音:いらっしゃ…
ケイ:あ、居った!ダイ!!
[N]:カラン、と音を立てるドアベル。それに反応して月音は挨拶する。
しかし、来訪者にはそれが届いてはいなかった。嬉々とした第一声を発し、訪ね人へと一直線に向かっていく。
彼女が揺らしていく綺麗な紅(あか)く長い髪に月音は目をひどく惹き付けられ、視線でその姿を追ってしまう。
緋(ひ)色な長髪の持ち主は、月音よりも身丈(みたけ)が低く小柄で、幼い顔をしていた。
大地:おわっ!…な……
ケイ:ダ〜ぁイ〜っ。
大地:…ハァ。お前かよケイ…
ケイ:『お前か』は無いやろ!愛しのダーリン恋しくて、ガッコ終わるや一目散で来たんやで!?
大地:…知るかよ、つか、んな恥ずかしい事バラさんで良いっ!…つか放せ、離れろ、俺。
ケイ:いけずー。えぇやん、ちょっとくらいー。
月音:……
月音(M):堪えろ、私…
大地:っだぁ、放せ。ほんとに怒るぞ?
ケイ:うー…そんな怖い顔せんでも…
月音:こんにちは。お席、こちらをどうぞ?
[N]:凹んだ顔こそすれ、未だひしと御崎を離さない赤髪の女の子に、
前触れもなく月音はカウンターの一席を勧めた。
仲裁者が入った事に、御崎は顔へ隠すことなく安堵を見せた。
…もしかしたら、それが気にくわなかったのかもしれない。
彼女は幾分忌々しげな眼差しでもって月音を見た。
まじまじとそうすると、今度は胸に付いたネームプレートを見る。
そしてもう一度月音を見ると…どうしたことか、にこりと表情を一転させた。
ケイ:おおきにな、つっきー
大地:「つっきー」?
ケイ:せやて、プレートに書いとるし。『つきね』っちゅー名前なんちゃうん?
大地:馬鹿、『つくね』だ、つくね。つくね、って読むの。
ケイ:へぇ…そーなんや。
月音:うん、そうなの…よろしくね。
大地:…ケイ、苦しい。腕締めるな。
ケイ:んー?…気のせいやって。
月音(M):…そんな、警戒しなくたって奪ったり…しないのに。
ケイ:あ、そー言うたらダイぃ!今日早ゥ終わるんやろ?ヨウから聞いてん。デートして、デート!
大地:はァ…?
月音(M):笑え、笑うんだ私。
SD:ドアベルの鳴る音
客:こんにちわー…
大地:あ…
月音:あ、はい。いらっしゃいませー…
[N]:客の来た事を良い事に、月音は踵(きびす)を返して客を出迎え、二人から逃げた。
大地:――それじゃ、ごめん。お疲れ。
月音:はい、お疲れ様です。
ケイ:ほなな、つっきー。
月音:ええ、またのご来店をお待ちしております。
月音(M):二人でデート、ね…
[N]:本当はあと一時間、御崎にはバイト時間が課せられていた。
しかし、店長である夷墨が早く切り上げていいとお達しを出したのだ。
[回想]
夷墨:バイト先に彼女を待たせておいてるなんて感心しねぇな。
大地:すみません…
夷墨:今日は月音もいるから、もーいい。早く上がれや。
大地:え、でも…
夷墨:気にすんな、時間も時間だし二人で何とかなる。
たった今日の一回で首切ったりもしねーし。だからほら、さっさと支度して帰んな。
申し訳ねぇと思うなら明日死ぬほど仕事増やしてやるから…それで贖(あがな)えや。
[回想終了]
月音(M):早く上がれるって聞いて嬉しそうな顔をしてたよな、ケイちゃん。
…いいな…
月音:…羨ましい。
[N]:店を閉じ、店には月音と夷墨のみ。お疲れさま、と、二人で一服入れている最中(さなか)。
二人の間を取り持つように、静かな調子で、ラジオがクリアに受信されている。
カウンター席の椅子に月音は腰を落ち着けて、一人出されたコーヒーを口にしていた。
オフホワイトのカップを両手で包み、その中に注(そそ)がれている
煎(い)り豆から抽出(ちゅうしゅつ)した焦げ色の液体をじっと見つめている。
そんな中での呟きだった。そんな彼女の言の葉に対して、器機の後片付けをしていた夷墨はその作業の手を止め、彼女を見つめた。
夷墨:『羨ましい』?
月音:…ん、ちょっとね。
夷墨:それは、一体何(なァに)に向けて言ってんのかね。
月音:ん?
夷墨:恋人という存在?それとも、恋人という関係?
…つか、大地も鈍いよな。どちらにせよ、あいつへの恋情ベクトルな話だろ。
月音:ふふ…ざぁーっくり切り込んで来るなぁ……さぁねぇ。何(なァに)を言ってるか分っかんない。
夷墨:ハッ、惚(とぼ)け腐って……
月音:…今更だね。
夷墨:まァな。でも、お前がそれをハッキリ示さねーと此(こ)の侭(まま)だ。
それなのに『羨ましい』なんてほざくんじゃねー…。
月音:……。
夷墨:…言わなきゃ伝わんねーんだよ。表わさなきゃ分かんねーんだよ。
…ま、伝わんねー侭でも知られねー侭でも良いってんなら、そのままでも良いけどな。
お前の決めるこった、好きにすりゃいい。
[N]: それだけいうと、マスターは月音へ背を向けた。
ふと、BGM程度に流していたラジオから、切ない調子のラブソングが流れてきた。
月音(M):あ、この曲…。前にCMで流れてたやつだ…。
夷墨:…ハッ、今のお前ぴったりだな。
月音:……。
[N]:月音は何も言えなかった。
相手に気持ちを伝えられなかった恋は、ただただ宙ぶらりんな侭という歌詞が、彼女の耳から離れない。
月音:…初めてだった。
夷墨:ん?
月音:いー君のほかに…気づいてくれた、初めての人だったんだよ…
月音(M):私の作り笑いに。
月音:いつの間にか好きだった…でも、しょうがないじゃん。
夷墨:…“伝えない”事はお前の気持を認めないのと同じだぞ?
月音:…認められなくたって良いよ。
夷墨:阿呆(あほう)、認める云々(うんぬん)は大地じゃない。お前だ。
月音:……良いんだよ、それで。
月音(M):私にはあの赤髪の子の至福そうな笑顔を奪うことも、御崎さんのあの嬉しそうな顔を奪うことも…出来ないから。
だから、知られていながら作り笑いを浮かべるんだ。本当の顔を、曝(さら)す事だけは出来ないから。
月音:♪〜♪〜
[初恋(村下孝蔵)のサビを推奨します]
[N]:月音はコーヒーを飲み乾すとそのカップを手にし、ラジオから聞こえた曲のフレーズを鼻で歌いながら…
椅子から、降りた。
END?