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電車痴漢:防衛医大教授に逆転無罪 最高裁「判断慎重に」

最高裁の無罪判決後、会見する名倉正博さん=東京・霞が関の司法記者クラブで2009年4月14日午後4時12分、尾籠章裕撮影
最高裁の無罪判決後、会見する名倉正博さん=東京・霞が関の司法記者クラブで2009年4月14日午後4時12分、尾籠章裕撮影

 東京都世田谷区を走行中の満員電車で06年、女子高校生に痴漢をしたとして強制わいせつ罪に問われた防衛医科大教授、名倉(なぐら)正博被告(63)=休職中=の上告審判決で、最高裁第3小法廷(田原睦夫裁判長)は14日、懲役1年10月の実刑とした1、2審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。小法廷は「被害女性の証言の信用性を疑う余地がある。犯罪の証明が不十分」と述べた。名倉さんの無罪が確定する。

 最高裁が痴漢事件で2審の有罪判決を覆したのは初めて。小法廷は満員電車の痴漢事件の審理について「特に慎重な判断が求められる」と初判断を示し、理由として「客観証拠が得られにくく被害者の証言が唯一の証拠である場合も多い。被害者の思い込みなどで犯人とされた場合、有効な防御は容易でない」と述べた。被害証言を補強する他の証拠を求める内容と言え、捜査や公判に大きな影響を与えそうだ。

 名倉さんは06年4月18日、通勤途中に小田急線成城学園前-下北沢駅間を走行中の準急内で、女性(当時17歳)の下着の中に左手を入れ下半身を触ったとして起訴された。捜査段階から無罪を主張したが、1、2審は「スカートのすそに腕が入っており、ひじ、肩、顔と順番に見て、名倉さんに左手で触られていることが分かった」とする女性の証言の信用性を認め有罪とした。

 小法廷は、鑑定で指から下着の繊維が検出されていないなど客観証拠がなく、起訴内容を支える証拠は女性の証言だけと指摘。そのうえで▽女性が積極的に痴漢行為を回避していない▽起訴内容の行為の前に痴漢被害を受けて下車しながら、再び被告のそばに乗車した経緯は不自然--などの点から「信用性を全面的に認めた1、2審の判断は慎重さを欠く」と結論づけた。

 判決は5人の裁判官のうち3人の多数意見。田原裁判長と堀籠幸男裁判官は「女性の証言を信用できるとした1、2審の認定に不合理はない」と反対意見を述べた。

 書面審理中心の最高裁が2審の判断を覆す場合、通常、憲法違反や判例違反、法令解釈の誤りを理由とする。今回は「重大な事実誤認があり(2審を)破棄しなければ著しく正義に反する」としており、事実誤認だけを理由としたのは異例。【銭場裕司】

 ▽池上政幸・最高検公判部長の話 被害者証言の信用性が否定されたのは遺憾だが、最高裁の判断なので真摯(しんし)に受け止めたい。

 ◇裁判官の判断一覧(※かっこ内は出身。◎は裁判長。敬称略)

<無罪>藤田宙靖(学者)、那須弘平(弁護士)、近藤崇晴(裁判官) 

<有罪>◎田原睦夫(弁護士)、堀籠幸男(裁判官)

毎日新聞 2009年4月14日 20時14分(最終更新 4月14日 23時14分)

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