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宮崎駿監督 「ポニョ」の舞台・鞆を語る '09/4/21

 宮崎駿監督はアニメ映画「崖(がけ)の上のポニョ」の舞台だとされる福山市鞆町について初めて語った。主な一問一答は次の通り。(野崎建一郎)

 ―鞆でポニョの構想を練ったのですか。

 結果としてそうなった。沸騰した頭の中を冷却しようと二〇〇五年二月から二カ月間、鞆の古民家で独り暮らしをした。引き揚げる際に、「こういう感じのところを描けたらいいな」と思った。

 ―どこが気に入りましたか。

 毎日のように一帯を散歩したが、私が生まれ育った関東の太平洋と瀬戸内海では、海の見え方が大きく異なることに強い関心を持った。水平線の高さや波のうねり、船の往来の多さなどがまったく違った。

 ―鞆はポニョの舞台なのですか。

 否定も肯定もしない。鞆の町やその周辺には保育園や造船所はあるが、丘の上にあんな形の家はなく、鞆そのものではない。ただ、スタジオジブリの美術スタッフと町を歩き、参考にはした。あの辺りの内海であるのは間違いない。

 ―映画では「TOMO」というスーパーや沼名前神社と書かれた大漁旗が出てきます。

 町を歩いた際に、スタッフの頭の中に地名などが刷り込まれた結果だろう。意図したものではない。

 ―鞆港に橋を架ける計画をどうみますか。

 住民ではないので、偉そうなことは言いたくない。計画賛成派、反対派のどちらにもくみしたくない。ただ、感想を尋ねられれば、開発で町が良くなるというのは間違いだと言いたい。

 ―間違いとは。

 道路や駐車場をつくっても過疎は解決しない。開発が進んだ首都圏でも空き家が増え、道が狭い問題はある。架橋で若者が町に戻ってくると考えるのだろうが、それは幻影だ。

 鞆には道端にいすを出して談笑し、すれ違う人とあいさつをする光景がある。そういう宝を大切にするべきだ。

 ―架橋は半数超の住民が求めています。

 住民自らが資金を負担するなら、そこまでの賛成が得られるかどうか。鞆町周辺ではこれまで、グリーンラインや内海大橋が整備されたが、地域の活性化につながっていない。道路や駐車場、下水道の問題は、空き地の活用など別の解決法があると思う。

 ―映画の参考にした景色や文化財を守りたいという思いがあるのですか。

 鞆の景色は開発で多くが奪われた「すり切れた風景」だと思う。むしろ景観を再びつくり出す努力が必要だ。文化人然としたことを言うつもりはない。

 ―どんな解決法がありますか。

 賛成派と反対派の溝はそう簡単には埋まらないし、開発をしないからといって過疎化に歯止めがかかるわけではない。どう自然と付き合い、どういう生涯を送るかを一人一人が考えることが重要だ。橋を架けることが議論の出発点となっていることに問題があるのではないか。

【写真説明】「橋ができても、車が通るばかりで町はさびれる」と話す宮崎監督




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