2009年04月20日 (月)時論公論 「学力テスト 見えてきた限界」

(藤井キャスター)
 全国の小学校6年生と中学校3年生230万人あまりが参加する全国学力テストがあす(21日)行われます。3年目になる学力テストの課題について早川解説委員がお伝えします。

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(本記)
 43年ぶりに復活し、ことし3年目を迎える全国学力テスト。1年目は採点の遅れ、2年目は結果の公表をめぐって混乱が続いてきました。文部科学省は「課題を修正しながら、定着しつつある」としていますが、限界も見えてきました。見えてきた限界について考えます。

 このテスト、こどもたちの学力低下が言われる中、現場の指導の改善に役立てるためとして実施されることになったものです。ことしは、全国の小学校6年生と中学校3年生の全員を対象にあす一斉に行われます。国語と算数・数学の2教科。

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時間割は、小学校3時間、中学校4時間のテストと20分のアンケート調査です。

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参加する学校は、公立でただ一つ参加していなかった愛知県犬山市が参加を決めたことで、公立は3年目にして初めて100%になりました。一方で、私立は1年目の62%からことしは47%と初めて半数を割りました。私立学校として独自の教育をしているのに公立との比較に巻き込まれたくないというのが本音のようです。

 ことしのテストの注目点は二つです。

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 一つは、難易度のバラツキ解消なるか。去年のテストでは全体に成績が下がりました。出された問題が難しくなったせいだとされました。問題の難易度にバラツキが出たことで前の年の成績との比較ができませんでした。現場の指導の改善に役立てよと言いながら、どう生かせばよいかわからないという批判が出されました。問題の難易度がどうなるか、まずはこれが注目点です。
 もう一つは、解答時間の不足を解消できるか。去年のテストでは、小学校の国語で解答時間が足りなかったという割合が40%を超えました。こどもの学力不足のせいなのか、時間内に解かせるには分量が多すぎたせいなのかハッキリしません。知識を活用してじっくり考える力を見ると言いながら結果的には学力の瞬発力を見るようなものです。この点がどう改善されているか、もう一つの注目点です。

 持ち越された課題にテスト結果の公表問題があります。
 大阪の橋下知事の発言に始まり、鳥取や秋田で市町村ごとの平均点を公表するかどうかをめぐって、公表すべきではないとする文部科学省との間で議論になりました。知事たちの考え方はさまざまで、公表することで市町村同士を競わせるとする考え方から、情報公開条例との関係で得られた情報は公開すべきだとする考え方までいろいろです。これに対して、文部科学省は、一律の公表は過度の競争につながるとして、公表しないようにとの要請を繰り返し、ことしもこの方針は変わりません。

 都道府県の対応とは別に市町村はどのように結果を扱っているのでしょうか?
 文部科学省が去年の10月から11月にかけて行った調査では、全体のほぼ4割が結果について、会議やシンポジウム、ホームページなどで公表、または公表予定だと答えています。このうちの4分の3までが平均正答率など数値も公表しているとしています。

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知事たちが公表、公表とこぶしを振り上げている間に市町村ごとの自主的な判断で公表は案外進んでいます。一方で、市町村の95%までが都道府県が市町村名を明かした公表はすべきでないとしています。テストをした以上は、その結果は明らかにされるべきだと考えるのは当然です。しかも、全国一斉に行っているのですから、結果を隠すのは不自然です。しかし、公表するのであれば、市町村ごとにたとえば中学校が1~2校しかなかったりと事情は異なりますので、文部科学省や都道府県が一括してというよりは、学校に直接責任を持つ市町村の判断で行うのがスジだと言えます。いずれにしても、この点については、十分に議論し、落ち着きどころを探る必要があります。

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 見えてきたテストの限界とはどのようなものでしょうか?
 5点あげたいと思います。

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 一つは、テスト結果として出てくるのは、平均点での相対的な比較に過ぎないことです。学校の指導の改善に生かすと言いながら、わかったとこと言えば、少人数指導をすれば効果があるとか、テスト問題を使って指導をした学校の成績の伸びがよいといった程度にとどまっています。たとえばどういう少人数指導がよいのかといったことまではハッキリしません。経験的にわかる範囲のことにとどまり、学ぶべき知見が浮かび上がらないという限界が指摘されています。
 二つめは、年ごとの成績の変化を分析できないことです。問題の難易度にバラツキが出ないように事前にサンプル調査をするなどして難易度をはかる方法が考えられますが、学年の全員を対象にしたテストであるために、事前調査ができないという限界があります。これでは、結果を肝心の国の教育行政の評価には生かせません。
 三つめは、時間と費用がかかりすぎることです。このテストでは、採点を正確に行うためとして答案を中央に集めて、一括して採点しています。採点基準にバラツキが出ないように問題ごとに採点者を分けるなど厳格に実施しています。そのために時間がかかり、テストは4月実施、成績の返却は9月という時間差が生まれます。文部科学省はテスト問題を使ってこどもたちを指導するよう求めていますが、時間差があり過ぎることで現実にはそれほど活用されていません。テストを受けた学年以外の先生の中には、どんな問題が出されたのかを知らない先生が多いという指摘もあります。毎年60億円近い費用をかけただけの効果があるのか、その限界も見えてきました。
 四つめは、情報の分析が十分ではないことです。原因の一つに、分析できるだけの専門家がいない、そうした専門家の育成をしてこなかったという皮肉な結果が見えてきました。文部科学省の専門家会議で、情報分析の専門家育成を急ぐべきだといういまさら何をという笑い話にもならない指摘があったほどです。
 五つめは、個人情報の管理に不安があることです。230万人分のテストの結果が毎年コンピューターに蓄積されていきます。このデータを今後どう使うのか、その点があいまいです。文部科学省は、将来的には専門的な研究のためのデータベースにすることをめざしていますが、それ以前にコンピューターに不具合が起きたり、データの漏えいが起きたりしないか不安が残ります。情報管理が新たな課題です。

 費用対効果を考えますと、毎年実施する必要があるのか、全員を対象にしたテストをし続ける必要があるのか見直しを議論すべき段階に入ったと言えます。専門家の分析で、国のテストと都道府県が独自に行っているテストとで結果に大きなズレはないという報告がなされています。そうであれば、テストの実施は地方に任せるという判断も成り立ちます。国は問題の作成と全国的なサンプル調査の実施に絞り、この問題を使って各地で学校ごとにテストをして、現場で採点し、指導の改善に役立てることが現実的ですし、費用も少なくてすむはずです。来年、6年生でテストを受けた学年が中3になって再びテストを受けることになります。その分析がすんだ段階で、テストにかける60億円の有効な使い道を改めて考える必要がありそうです。

投稿者:早川 信夫 | 投稿時間:23:40

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