05 五億円の偽造証明書

偽造残高証明書

 ここに額面五億円の株式払込金保管証明書のコピーがある。二〇〇二年一一月二七日にブラーヴ・クラジュー(現ナショナルインフォメーションサテライト)という会社を設立するため発行されたものだ。この会社の代表取締役は中村暢孝。取締役には立崎泰も名前を連ねている。

 この証明書には一見して明らかにおかしなところがある。発行した金融機関がUFJホールディングスになっているのだ。UFJホールディングスは持株会社だから、通常の銀行業務である保管証明書の発行はしない。ある程度銀行業界に詳しい人間ならばすぐに偽造と見抜ける代物だ。証明書には杉野孝春という名前が書かれ、「三和銀行投資管理室」の印が捺されている。UFJホールディングス広報に確認したところ、同社が保管証明書を発行していないことはもちろん、対外的に何らかの証明書を発行する立場の人間に杉野孝春という名前の人物はいないことがわかった。この証明書は三和銀行が合併再編によってUFJ銀行になった前後の時期に、あまり同行の事情に詳しくない人物によって偽造されたものであることがこれではっきりした。

 しかし、この証明書がUFJ銀行や三和銀行にまったく無関係に偽造されたものかというと、どうもそうではなさそうだ。筆者はこの偽造証明書の実物を法務局で閲覧したが、UFJ銀行のロゴマークなどはカラープリンタで印刷されていたものの、表面に「SANWA INVESTMENT INC」という文字が浮出しになった特殊な用紙が使用されていた。印刷されたものと違ってこれはさすがに偽造が難しいから、三和銀行内部に用紙を提供した協力者がいた可能性がある。ただし、UFJホールディングス広報の話では、この英文名称に該当するような三和銀行の子会社は(少なくとも一九九六年時点の資料によれば)ないとのことだ。

 実は、中村暢孝の周辺に「UFJ銀行のOB」と名乗る牧資章(まきもとあき)という人物がいることがすでにわかっている。筆者の取材によれば、中村が牧とともに金融機関を訪ね、怪しげな新規事業を材料に融資の引出しを画策した形跡がある。あるいはこの牧資章が協力者なのかも知れない。牧の過去についてはまだわかっていないが、同姓同名の会社社長がタイで覚せい剤を使用して逮捕されたとの記録が残っている。

 なお、偽造証明書はこの一通にとどまらず、株式払込金保管証明書、残高証明書あわせてかなりの数が出回っているとみられている。すべて同じ杉野孝春名で発行されていることからして、いずれもぱちモルガン一味の犯行である可能性が高い。これについてはUFJホールディングスのウェブサイトでもアナウンスされている。

 さて、偽造証明書を使って資本金五億円の大企業がまんまと設立されてしまったわけだが、いったん設立登記がされた以上、この会社は大企業としての信用を与えられる。一円の出資もすることなく会社を設立したうえに、今後何らかの形でこの信用を悪用し、さらなる詐欺を続けるつもりなのではないだろうか。

 なお、立崎泰はこの会社を設立するにあたり、ある実業家から現金で一億円受け取っている。現実の払込がなされていない以上、この一億円は丸々立崎のポケットに入ってしまったわけだ。これは明らかに詐欺だが、立崎はこの一億円を「金銭消費貸借」として逃げ切るつもりのようだ。そのために立崎は実業家に「国宝級の美術品」という三十六歌仙図屏風を「担保」として提供した。この美術品については別に書くつもりだ。

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