04 いんちき裁判で高級車をわが物に

 二〇〇三年八月一九日、東京簡易裁判所である裁判が行われた。原告は債権回収サービス会社、被告は詐欺師立崎に乗っ取られたアクティビジョンの社長である小野寺隆と、連帯保証人になった同社元社員の吉田敬正。裁判の内容は小野寺がローンで購入した高級車シーマの代金支払いを求めるものだ。小野寺が出廷しないまま口頭弁論は一回で終了し、小野寺ひとりに対してローン残金を分割で弁済すべしという判決が下された。

 小野寺は運転免許を持っていない。だから自分の名義で車のローンが契約されているなどとは夢にも思わず、立崎の巨額の横領が発覚し、経理書類を調査するまでまったく気付かなかったという。それどころか、小野寺は自分を被告にした裁判が行われていて、しかも敗訴していたことすら知らなかったのだ。

きっちんままの郵便受

 本人の知らないところで裁判を行うカラクリはこうだ。小野寺は当時、西麻布のアクティビジョンと同じ住所に住民登録していたが、立崎一味は小野寺の名前を騙って郵便局に転居届を提出し、アクティビジョン宛の郵便物を渋谷区鴬谷町のマンションの一室に転送させた。もちろん郵便物がまったく届かなくなっては怪しまれるから、必要なものを抜き取って残りをアクティビジョンの郵便受けに入れておくなどの工作がされていたのだろう。転送先の鴬谷町では立崎の愛人とされる岩田豊子が「きっちんまま」という弁当屋を開いており、ここに偽のオフィスが設けられてアクティビジョンの表札が掲げられた。しかも裁判所から書類が届いたとき、ちょうど夏休み中で社員は留守番の岩田を除いて誰も来ていないという設定がされていた。スパイ大作戦ばりの大胆で鮮かな手口だ。

 裁判関係の書類は郵便送達という方法で届けられ、本人確認は通常の郵便書留より厳格に行われるから、まったくの他人は受け取ることができない。しかし岩田は小野寺の「内縁の妻」と名乗り、まんまと書類の奪取に成功した。あとは口頭弁論をすっぽかして被告敗訴の判決書が送られてくるのを待つばかりだ。裁判所には小野寺の住民票が提出されているのだが、どういうつもりか原告側から小野寺と岩田が内縁関係にあるという上申書や調査報告書が出されていて、裁判所もこれに惑わされたのか、判決原本にまで鴬谷町の偽の住所が記載されてしまった。

 こういう他人の名前を騙ったいんちき裁判を氏名冒用訴訟という。たとえいんちきであっても判決が確定した以上、これを覆すのは再審によるしかない。簡易裁判所に書類を出せば済んだいんちき裁判の時とは違って、正式な裁判となる再審には多大な費用と時間を要する。氏名冒用訴訟で一方的に敗訴させられたと知って、「裁判所までが詐欺師の味方をした」と泣き寝入りする人が後を絶たないのもうなずける。まして詐欺師に一文残らずむしり取られた被害者ともなれば、とても裁判を起こす気にはなるまい。

 さて、詐欺師にとってこのいんちき裁判は非常に意味のあるものだ。確定判決が小野寺に弁済を命じた以上、シーマの事実上の所有者である立崎も連帯保証人になった吉田も、もはや差押を受ける心配はない。再審が行われない限り、裁判所のお墨付きを得て堂々と九〇〇万円の高級車を乗り回すことができるのだ。実際に立崎が小野寺名義のシーマに乗っているところが目撃されている。

 なおここに出てきた吉田敬正は、中村暢孝が社長を務めていたころのポッカクリエイトの取引先の代表取締役で、ポッカクリエイトに多額の債務不履行を食らわせた人物であることがわかっている。このことから、ポッカグループ全体で一四億円といわれる中村時代の損失の少なくとも一部は、中村と吉田が示し合せた特別背任であったことがわかる。この件は別のところで詳しく書こう。

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