風知草

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風知草:同じ説明なら無意味だ=専門編集委員・山田孝男

 雨宿り ちよつちよつと出ては濡れてみる(江戸川柳)

 小沢一郎民主党代表の最近の心境をそんたくすれば、そんなところだろう。秘書の逮捕は桃の節句で今は新緑だ。小沢は今週から全国遊説を再開するそうだが、時間がたてば雨がやむとは限らない。

 先週、「国民への説明が必要だ」と小沢に迫ったのは鳩山由紀夫幹事長だった。小沢は14日の記者会見で「私なりのやり方でやる」と請け合った。「私なりのやり方」とは何か。

 小沢が地方遊説再開をあらためて宣言した「連合」中央執行委員会(16日)での発言記録を取り寄せて見たが、小沢の主張はこれまでと変わらない。「国家権力をもってすれば立ち小便でも事件にできる」という捜査批判と、「政権交代できなければ死んでも死にきれない」という哀訴に尽きる。

 連合の高木剛会長が「世論調査も厳しく選挙が大変だ」と水を向けると、小沢は「責任は感じる」と恐縮しつつ「主張を変えるつもりはありません」。高木に促されて拍手がわき起こったが、小沢を迎えた会場の、まるで腫れ物に触るような緊張感が伝わってくる。

 言うまでもないが、民主党と連合が困っているのは、捜査批判や政権構想に関する小沢の説明が足りないからではない。なんでゼネコンからカネをいっぱいもらえるのか、それを何に使うのかという説明が圧倒的に不足しているからだ。

 小沢に対話と説明を促した鳩山は、新聞のインタビューに答えてこう言っている。

 「代表が今、最低限やらなくてはならないのは、国民に直接、会って対話をすることです。西松事件の疑問を率直に伝えて、国民が『ああそうか』ということになれば、お互いの距離感が縮まる」(15日産経)

 小沢の説明をいくら聞いても、ああ、そうかとフに落ちない理由ははっきりしている。

 西松建設から小沢側へ渡った違法献金は起訴事実だけで合計3500万円、時効分も入れれば3億円を超える。小沢はこのカネの流れについて「浄財の出所はせんさくしない」などという。この空々しさが不信の核心だが、小沢はこの説明を変えるつもりがない。

 小沢が15日夜、輿石東(参院民主党議員会長)、石井一(党副代表)、西岡武夫(参院議運委員長)ら古参幹部と会食した際、「最後のチャンスだ。なりふり構わずやる」と漏らしたという報道もあった。

 「私なりのやり方」とは、どうやら、これまでの説明を変えずに突き進むことらしい。小沢は迷いながらもハラを固めつつあり、そういう説明行脚が始まろうとしている。

 それと察した党最高顧問・渡部恒三はBS放送の番組で「本当のことを(小沢に)言ってくれる者は来ない。来るのはゴマスリばかり」だと警鐘を鳴らし、小沢の自発的な辞任に期待を表明した(16日)。

 秘書の起訴(3月24日)を境に小沢の進退問題はニュースの後景に去り、この間、民主党内はあきれるほど静かだった。小沢に依存するあまり、皆が口をつぐみ、小沢に取って代わろうというリーダーが一人として現れない。この停滞から民主党は抜けだせるのか。

 小沢が遊説でこれまでと同じ説明を繰り返しても国民は納得せず、むしろダメージが広がるだろう。それこそ「本降りになって出て行く雨宿り」(江戸川柳)である。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2009年4月20日 東京朝刊

 

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