国民が刑事裁判の審理に参加する裁判員制度のスタートまで、21日であと1カ月。5月21日以降に起訴される殺人などの重大事件で実施される。各地の裁判所では準備がほぼ整いつつあるが、国民の不安感は依然根強く、最高裁などは不安解消に向けた取り組みを継続していく構えだ。【北村和巳】
■産婦人・小児科も
最高裁は20日、裁判員になるのに差し支える具体的な事例をまとめたと発表した。昨年4月、職業やライフスタイルなどに応じ127のグループで実態調査した結果をまとめたが、さらに昨年10月~今年1月、60のグループで追加調査した。
「人員不足が深刻な産婦人科や小児科は、業務を休むのが困難」「派遣労働者や日雇い労働者は収入の減少につながる」などと、裁判員になるのが難しい例を新たに示した。
最高裁は2回の調査結果をデータベース化した。各地の裁判官が、裁判員候補者の辞退希望を早い段階で判断できるよう、参考にしてもらう考えだ。
■態勢の整備
裁判員裁判を実施する60の地裁・支部のうち、57カ所で法廷や評議室、裁判員選任手続き室などの整備が完了した。残りも5月21日までに使用できるようになる。障害を持つ裁判員候補者に備え、庁舎のバリアフリー化もすべてで実現した。
最高裁は今月、裁判官の少ない地方で和歌山毒物カレー事件や秋田の連続児童殺害事件のような大型事件が起きた場合に備え、応援部隊となる中堅の刑事裁判官5人を東京高裁に配置した。
60地裁・支部の半数は刑事裁判官が3~4人しかいない。審理が2週間以上に及ぶ大型事件の裁判員裁判がある際に派遣し、制度対象外の他の事件を担当させ、審理が滞ることを避けるためだ。
■育児と介護
60地裁・支部がある自治体のすべてで、乳幼児を育てる裁判員のため一時保育の受け入れ態勢が整った。
最高裁は、裁判所に呼び出される裁判員候補者の3・8%が一時保育を必要とすると試算。厚生労働省とともに各自治体に対し、(1)住民以外も利用できる「広域入所」(2)通常午後5時までの保育時間の1時間延長--を要請していた。
また、裁判員候補者に介護が必要な人がいる場合は、各自治体が介護サービスを紹介する態勢も整えた。ただ、一部自治体を除き、費用は候補者の負担だ。
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▼個人経営の小売業=確定申告前や棚卸し時
▼トレーダー=株式相場の乱高下時
▼小児科の医師や看護師=患者が増加する冬季
▼映画館関係者=新作映画の封切り日
▼派遣労働者=出勤日数が少ない月や就職活動時
▼アマチュアスポーツ選手=大会直前
▼共働き夫婦=6歳未満の子供の病気やけがの時。受験や入学式時も片親だけの出席は子供にとって望ましくない
▼単身赴任者=帰省予定日前後
▼小学生の子供がいる一人親=子供が高熱を出した際や就職活動時
▼青森県下北半島住民=悪天候時に地裁に到着できない可能性がある
毎日新聞 2009年4月21日 東京朝刊