2007-10-26
■[編集]「やりたいこと」と「売れること」は対立しない
ある編集者の気になるノート:「面白い」だけの本も、「売れる」だけの本も、僕は作りたくはない。
aru-henshusha様からトラックバックをいただきました。お書きになられている考えについてはほぼ全面的に賛成なのですが、今回気になったのはうちと一緒にリンクが張られていた、こちらの記事のほうです。
未公認なんですぅ:「売れそう」と「おもしろそう」
「おもしろい」と「売れる」の両方は難しいけど、どちらか片方ならいけそうなことはある。そのときに、「おもしろいけど、あまり売れなさそうな本」と「おもしろくないけど、売れそうな本」のどちらかを選んでつくれといわれたら、やはり自分は前者を選んでしまうだろう。
「おもしろいけど、あまり売れなさそうな本」と「おもしろくないけど、売れそうな本」。この不毛な二者択一問題で悩む作家を、私はたくさん見てきました。私だったらどちらもご免こうむると言って逃げるのですが、律儀に片方を選んで消えていく作家が実に多いのです。
「面白いけど売れない」ものというのは、間口の狭い、マニアックなものです。「LEON」の創刊編集長として知られる岸田一郎氏は、著書「LEONの秘密と舞台裏」で次のように語っています。
「オタク」なものになればなるほど、読者はどんどん減っていきます。もし、一部のマニアックな人たちから
「今までこんな凄いものはなかった!」
といわれるほどの雑誌ができたとしても、それを理解して賛同してくれる読者の絶対数というのは、思った以上に少ないという場合がほとんどです。
私の感覚では、作り手の「自己表現度」といったものが高いほど、読者はかえって少なくなる。雑誌とはおしなべて、そういうものなのです。
LEONの秘密と舞台裏 カリスマ編集長が明かす「成功する雑誌の作り方」
- 作者: 岸田一郎
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2005/08/31
- メディア: 単行本
「面白くないけど売れる」ものというのは、大衆受けするもの、マニアから見るとぬるく見えるものです。ポケモンのメディア展開の仕掛人として知られる久保雅一氏は、東映アニメーション研究所で行った対談で次のように述べています。
結局、いいものを見分ける能力は、特別なものではありません。自分がいいと思うその気持ちが、国民の最大公約数になればいい。
自分がいいと思うものが、尖った作品ばかりだとその人は難しいかもしれません。どちらかというと、平凡ですごくフラットな感覚を持った人がいいです。
例えば、『私がいいと言った歌手とかタレントとかは絶対売れるのよ』と自慢する人がいたりします。それは何もスペシャルな能力でなく、あなたは日本国民の最大公約数の中にいますということだけです。
どこまでも自分は普通であろうとする努力は大切だと思います。それは、世の中でヒットしたものを見た時に、直感的にいいなと思えることです。
自己表現にこだわると売れなくなる。かといって国民の最大公約数をやるのもつまらない。ではどうするか。私はクリエイターに、どちらかと言わずにどちらにも適度に手を出すやりかたで行ってほしいと思っています。
たとえば「もやしもん」は菌や農大といったマニアックな題材を扱っています。普通なら売れるはずもありませんが、菌をかわいらしく描いたり、酒に傾斜した発酵食品の取り上げ方をしたり、大学生活を面白く描くことで一般人も取り込み、アニメ化まで果たした人気作になりました。なんでもやりようはあるということです。
やりたいことと売れることは両立できます。難しいですから相当悩むことになると思いますが、どちらかを安易に選んで不毛な悩みを抱き続けるよりはずっとましです。どうせなにをやっても悩むことになるのなら、まずは出だしで死ぬほど悩むべきだと私は思うのです。
最後に、福島正実氏が「未踏の時代」で語っている、「SFマガジン」創刊時の考えかたを引用して今回の締めに代えたいと思います。
もしSF雑誌を曲がりなりにも成功させようとおもうなら、まず第一に、SFファンを無視してかからなければならない。SFファンを読者対象としてあてにしてはならない。SFファンのための雑誌しかできないようなら、最初から出さない方がいい――ぼくは、こう考えた。