2007-11-06
■[編集]打ち切りと再挑戦することの厳しさについて
※注:このエントリはフリーランスの編集者の、一個人としての意見にすぎません。電撃文庫の方針とは全然まったくこれっぽっちも関係ありませんので、ご注意ください。
某工場長が先物に手を出そうとしていると聞いて、黒岩重吾のことが脳裏をよぎった多摩坂です。工場長、先物だけはいけません。ご自愛ください。
さて。タモリさんはデビュー前にいろいろな経緯があって(経緯についてはこのへんをご覧ください)、赤塚不二夫さんの家に居候していたことがあります。タモリさんの居候生活は、赤塚さんの家賃17万円の4LDKのマンションに住み、服も車(ベンツ)も赤塚さんのものを使い放題。さらには赤塚さんから毎月3万円(20万円という説もあり)の小遣いを渡されるという、至れり尽くせりのものでした。
タモリさん自ら「日本史上、最後の居候」と称する豪快で破天荒な生活でしたが、このことについてパトロンであった赤塚さんは次のように言っています。
この男をなぜこういうふうにしていたかというと、才能なんだよ。俺はこいつの才能を見込んでたんだよ。だから、なにがなんでも東京に置いておかないといけない、九州に帰しちゃダメだと思ったんだよね。そのためには何でもする、だから俺のマンションにもいろよとか言ったわけ。
- 作者: 赤塚不二夫
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2000/01/14
- メディア: 単行本
タモリさんの芸はあまりに新しすぎたため、はじめのうちはテレビでなかなかウケなかったそうです。しかし、そのような状況にあっても赤塚さんはまったく意に介せず、タモリさんの支援を続けました。
なぜ突然このような話をしたかというと、次に紹介する記事を見たからです。
クロらじのアンテナ:作家不足の意味が分からない。理解できない。
また、刊行点数増加による競争激化、作家不足の深刻化といった問題もある。出版社にとって、差別化のために新人発掘とメディアミックス戦略の重要性がますます高まっている。
確かに新人さん掘り起こすのも大切だと思いますよ。でも、書きたい人に書かせるのも重要かと。
特に電撃文庫では、新人賞受賞しても売れなかったら3巻あたりで打ち切られる、という話をよく聞きます。
某ハンター×ハンターの人は書きたくないから漫画を書かなかった訳ですが、
その様な“捨てられたけど書きたい作家”に書かせず、新人さんばっかりホイホイ出して売れなかったら捨てる業界そのものの仕組みが理解できません。
失敗しては、いけないのですか?
それは金がかかってるから?
私には理解できません。
新人作家が失敗作を作るのは、新卒が就職活動に失敗するのと同じくらいいけないことです。どちらも失敗したからといって即人生終わりというわけではありませんが、失敗後の活動は当然のことながら非常に厳しくなります。
また、商業出版は同人活動とは違います。id:xx-internetさんの「銭」レビューの言葉を引用しますが、
「お金が絡むと人が変わるのは当然で、それはお金が何かをするときの力であり基盤であるからです。
どんなに先のために必要だろうが、納得ができなかろうが、採算の取れないものは消えるしかない。」
のです。なお、上のレビューで紹介されている鈴木みそさんの「銭」1巻は、マンガやアニメ業界の金勘定の話が載っていますので、興味のある向きはご覧になるとかなり勉強になるかと思います。
しかしながら、id:kuroradiさんが言うように、失敗した作家が全員使い捨てにされているかというと、そんなことはありません。編集者が本当に見込んだ、惚れこんだ作家には次の機会が与えられます。実際、某冨樫さんがあれだけ好き勝手やっても干されないのは、くやしいけれども彼が描く作品が本当に面白いからです。
チャンスを与えられたにもかかわらず、勝たなければいけない勝負に負けてしまったからには、相応の辛酸は舐めなければなりません。そして、新人が次々とデビューしてくる中にあって、再びチャンスを得られるか否かは、タモリさんや某冨樫さんのように「彼を手放すわけにはいかない」と思わせるだけの魅力や実力が備わっているかにかかっているのです。