第93回 2008年03月05日
透き通る泉のような演奏
銀座十字屋ハープ&フルートサロン恒例のランチタイムコンサート。
先ず、1曲目はおなじみの名曲「歌の翼による幻奏曲」。この原曲は皆様御承知のとおりメンデルスゾーンの有名な歌曲「歌の翼」です。それをシュテックメストというフルート演奏家がピアノとフルートのために変奏曲風に書き改めたものです。
本日の演奏者のお二人にとって手馴れたものかと思いますが、それを決して手を抜かず丁寧な表現で、お二人の心優しさがそのまま表されたような「穏やかで優しい」演奏でした。
2曲目は、日本のハープ界の父ともいえるJ.モルナールの作品。「日本民謡のテーマによるファンタジー」
これは想像にすぎませんが、氏が日本にいらして極く日が浅い頃、初めて耳にするわが国の民謡に、母国オーストリアのものとは全く異なった新鮮な印象から、日本のハーピストの為に作ってくださったのではないかと考えます。というのも、ヨーロッパの人々は自分の国、地方、町などその土地の音楽・文化を大変大事にします。そこでモルナールさんは「日本の学生さん、もっと自分の国の音楽を大事にして、誇りをもってくださいネ…」なんておっしゃったのかも知れませんね。
曲は「炭坑節」から始まり「草津節・よさこい節・江戸子守唄・ソーラン節」と馴染みの曲が続きます。途中に太鼓の音や樽を連想させる効果音的なハープならではの特殊技法が聞かれます。お二人の演奏は飽くまで楽しく又美しい音色で最後まで楽しませてくれました。
3曲目は有名なというよりハープといえばこの曲、ハッセルマン作曲「泉」別に「小川」というタイトルがつけられていることもあります。いずれにしても清冽な天然の美しい湧き水をイメージしています。川、それもかなり上流。源流といってもよいでしょう。岩の割れ目から滲みだす水、小さな滝となって迸る(ほとばしる)水玉。透き通るような川底を見せながら急激に成長する森の奥の清流。そんなイメージでしょうか?それこそこの曲は様々な場所で多くの人が演奏しています。それぞれの表現は演奏される方の感性が見えて中々興味深いものがあります。もちろん今日の新井さんの演奏も彼女らしく、素直な捉え方で、丁寧に又美しく、将に透き通る泉のような演奏でした。
4曲目「ランメルモールのルチア」よりルチアのカデンツです。
原曲のオペラはあまり知られていませんが、カデンツの中で「ルチアのテーマ」がどこかで聴いたことがある…、そんな気がしませんか?
新井さんから御自分で調べたこの原曲について説明がありましたが、成る程、そのおおまかなストーリーを伺ったあとで演奏をきくと、なぜかオペラの間奏曲を聴いているようで
主人公「ルチア」のイメージが勝手に浮かんで来てしまうのが不思議ですね。演奏は良い意味で説明的で、ドラマチックに仕立てられたとても素晴らしいものでした。
最後の曲は「カルメンファンタジー」
元々ビゼーの曲を「ボルヌ」がピアノとフルートの演奏会用変奏曲付の小品として作ったものですが、新井さんの師匠でもある「井上久美子」先生がピアノパートをハープ用にアレンジして作り直したものです。フルートの伊藤さん…音がきれいでした。
ハープの新井さん…まるでオーケストラのようにフルートを盛り上げる素晴らしい演奏でした。まさに本日の演奏の棹尾をかざる力のこもった良い音楽を聴かせてくれました。
新井さん、伊藤さん。お疲れ様でした。ありがとうございました。
銀座十字屋ハープ&フルートサロンランチタイムコンサートでは、ハープでいろいろなスタイルの音楽をお届けしております。毎週水曜日の12時30分から約30分のコンサートを開催しております。入場無料ですので、どうぞお気軽にお立ち寄りください。
〜新井薫〜(ハープ)
東京都出身。13歳よりハープを井上久美子氏に師事。
父親の転勤に伴い、1990年より4年の間アメリカに住む。帰国後、田園調布雙葉学園を経て、武蔵野音楽大学器楽学科弦楽器専修ハープ科を卒業。
在学中3年度に渡って福井直秋記念奨学生に選ばれる。
1994年第6回「日本ハープコンクール」ジュニア部門入賞。
2000年夏、Hayama Moon Studioにて録音したM. Grandjany作曲”The Colorado Trail”がMP3.comのサイトで3週連続ダウンロードランキングNo.1となる。
2002年、2003年度武蔵野音楽大学管弦楽団の九州、沖縄演奏旅行に参加。
2003年ラフマニノフ・プロジェクトにおいてヴラディミール・アシケナージ氏と共演。同年、卒業演奏会、新人演奏会に出演。
2004年4月には横浜にてリサイタルを、8月には渋谷セルリアン・タワーにあるジャズ・クラブ、JZ-Bratにて、鈴木浩遊氏、Ben Kemp氏らとジョイント・ライブを行う。
2005年3月、アイルランド大統領来日の際には御前演奏を行う。
各地にて老人ホーム、有名ホテル、レストラン、オーケストラ、室内楽、大使館出演、PV撮影参加等幅広く活動中。
演奏活動の傍ら、フリーで和・英翻訳やレッスンの通訳等も行う。
2000年より洋画家横尾正夫氏の絵画モデルも務める。
〜伊藤千尋〜(フルート)
3歳でピアノ、10歳でフルートを始める。
武蔵野高校を経て武蔵野音楽大学・器楽学科を卒業した後、
東京ミュージック&メディアアーツ尚美・ディプロマ学科卒業。
2003年武蔵野音楽大学茨城県支部卒業演奏会出演。
2006年茨城県県民コンサート・奨励賞受賞。
室内楽を中川良平氏師事。フルートを佐野悦郎氏、門馬曜子氏に師事。
現在、都内のホテルやレストラン、ブライダルでの演奏を中心に活動。
少しでも多くの方に音楽が親しまれるようハープとのデュオ演奏を主に病院や学校などでの演奏活動にも力を入れる傍ら、後進の指導にあたる。
現在、東京都在住。