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ラノ漫 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2007-10-03

グルーミング中

[]面白さの質を見抜けないと(編集者をやるのは)難しい

今日は11月10日刊行予定の「とある科学の超電磁砲」1巻の入稿作業をしておりました。まだ若干修正を加えなければいけないところはあるのですが、当面のところはつつがなく進行しておりますので、予定通り刊行できそうです。


さて。マンガ誌の編集者の著作やインタビューを読んでおりますと、「とにかく面白いものが欲しいんだ。面白ければなんでもいいんだ」的な発言にぶつかることがあります。私自身作家に対して使うことがありますし、作家の口から聞いたこともあるのですが、最近ちょっとこの考えかたは危ないんじゃなかろうかと思うようになってきたので、メモがわりに少し書いておこうと思います。


「面白い」というのは主観的なものです。ある人にとって面白いものであっても、その感覚をそのまま他の人に適用することはできません。100万人を喜ばせる面白さもあれば、100人しか理解できない面白さもあります。


「面白い」ことは「商品価値がある」こととイコールではありません。消費者無料コンテンツには寛容ですが、有料だと人が変わったように厳しくなります。どんなに面白がってもらえても、買ってもらえないのでは意味がありません。


作家編集者が「面白い」と思っても、数千人の読者が熱狂的に支持する「面白さ」でも、部数が4桁では単価が4〜500円くらいのマンガ単行本だと採算が取れません。価格がものすごく高く設定できるなら話は別ですが、マンガ本に2000円とか5000円とか出してもいいという人は少ないでしょう。


以上のような現実をふまえると、軽々しく「面白ければなんでもいい」とは言えなくなります。出版不況の中、作家が出してくる面白さの質をしっかり見極めて取捨選択ができないと、編集者はつとまらないように思います。

2007-10-02

ターゲットロックオン

[]アシスタント募集のお知らせ

この場を利用しまして小梅けいとさんのアシスタントを募集いたします。


http://www.spicy-wolf.com/media/index.html


主なアシスト内容はエンピツによる背景の作画。担当作品は電撃「マ)王連載の「狼と香辛料」になります。


エンピツ線画で背景が描けるかた

・建物をゴリゴリ描けるかた


を募集しております。


興味をお持ちいただけましたら、右のアドレス(m.tamasaka@gmail.com)に背景の実力のわかるサンプルを添えてご連絡ください。選考した後にご連絡さしあげます。


なお、特殊な仕事になりますので、待遇や勤務時間については個別にご相談となりますのでご了承ください。


みなさまのご応募お待ちいたしております。



[]ライトノベルマンガ後出しジャンケン

ギリシア神話エピメテウスという神様がいます。「パンドラの箱」で有名なパンドラを妻に持つこの神様の名前は epi(後で)+ metheus(考える)、つまり後知恵という意味があります。余談ですが、ギリシア人の祖とされるヘレンはエピメテウスとパンドラの孫にあたります。


さて。マンガ化されることが決まったライトノベルというのは、当然ながら人気があるわけですが、だからといって作品として完璧なわけではありません。ネット書評2chの該当スレッドを見れば、読者がその作品の何を支持してどこが気に入らなかったのか、作品にどんな穴や矛盾があるかを知ることができます。


こうして得られた情報は後知恵なので、続巻に反映させることはできても、すでに発表してしまった作品を書き直すことはできません。しかし、結果が出た後でメディア展開されるマンガは、この後知恵フィードバックして作品を改良することができます。


ライトノベルメディアミックスされる場合、マンガは最終的に展開の最後尾に位置する作品になります。マンガは描くのに時間がかかり、1話あたりに入れられる情報量が少ないため、アニメ等のメディアに追い抜かれてしまうからです。これはつまり、マンガは原作だけでなく、アニメゲームラジオフィギュアドラマCDに対するファンの反応も織り込んで作れることを意味します。


人気作品を原作に持ち、各メディアから集められた後知恵を参照することができるマンガは、後出しジャンケンにも似たかなり卑怯なポジションにいます。この優位を認識してしっかりと作品を作っていけば、相当な精度でファンの意向を汲みつつ、不興を避けることができます。


ライトノベルマンガを担当することになった編集者様がたには、この優位を大いに活用していただきたいと思う次第です。

2007-10-01

孵化したてのヒヨコ風

[]世界は美しくなんかないので、原作物の編集者はいつもたいへんというお話

多摩坂です。マンガ雑誌についてネガティブなことばっかり書いているので、マンガ雑誌不要論者と思われるかもしれませんが、そうではなくて、どちらかというとメディアとしての役目を終えようとしているのではないかと考えているマンガ雑誌寿命論者です。


さて。ジョージ・ルーカス監督スター・ウォーズを製作した際、三船敏郎氏にダース・ベイダー役での出演をオファーしたが断られたという、有名な逸話があります。スター・ウォーズのその後を知る我々からすれば大変にもったいない、残念な話です。しかし当時の三船氏の立場から見れば、受けることにまったくメリットを見いだせない仕事であり、断るのは当然であると言えます。


上の例ほど劇的ではありませんが、原作物を担当する編集者も普段作家を探していて、ルーカス監督と似たような目に遭うことがあります。というかよく遭います。いける匂いのする企画をおさえたとして、作家にもあてがあったとしても、その作家が受けてくれるという保障はどこにもありません。企画に興味がわかないとか、条件が折り合わないとか、スケジュールに空きがないとかで断られるのはしょっちゅうです。


さらにやっかいなことに、意中の人に断られたからといって、企画というものはそれで立ち消えになるものではありません。第一希望がだめなら第二希望、それもだめなら第三希望。いくらやってもだめなので、仕方がなく手が空いている作家に頼みこんで描いてもらうことすらあります。企画の仕上がりがどうなるかはいわずもがなです。


作家のことで悩めるのならまだ幸せ、というケースすらあります。新作のアニメゲームメディアミックスの一環としてマンガを作ることになった場合、最初は往々にして企画書や設定資料くらいしか事前情報がありません。だいぶ後になってから、自分がとんでもない地雷原に足を踏み入れていたことが判明するという、笑えない事例が意外とあるのです。


最後に。企画が上等で、関連作品のスタッフも素晴らしく、作家もそこそこ優秀という、一見非の打ちどころのない体制ができあがったとしても、油断はできません。原作やアニメが大ヒットしてしまったせいで、マンガがそれらと比較されてしまい、そんなに悪い出来でもないのに黒歴史呼ばわりされる。数字が出ているにもかかわらず、まわりから「もっと売れるものが作れたんじゃないのか」という目で見られる。そういった極悪な罠である可能性があります。


実力はあるにもかかわらず、ただただ運がなかったために不幸な結果に終わった作品は意外とたくさんあります。ダメな企画物にあたった時は、マンガとして読むのではなく、何がまずくてこんなことになったのか舞台裏を想像してみると楽しいでしょう。


[]ブロガーの先達の皆様からいただいた御下問に答えを返してみるテスト

ここ数年毎日のように見に行っていたサイトの管理人様がたから、おそれおおくもご意見など賜りましたので、折角なのでお返事など書いてみたく思います。


三等兵様の「ラノ漫が囁く「また同人作家さ」問題」について


失礼ながら、メディアワークス編集が持ち込みを要望することには、パンを咥えた少女が全力奪取でぶつかってくる種類の妄想作品を脳内に描く才能のある人間に向かって、「街に出て積極的に毎日女の子に声かけろ!」という体育会系ナンパ術の説教をするような矛盾を感じるのであります、隊長。

Sir!! 自分のリビドーを紙に叩きつけて印刷所に持っていって本にして、それを同好の士に対面で売りさばくバイタリティがあるなら、持ち込みまではあと一歩だと思います。それと、大手にばっかり持ち込みする人たちに対して、たまには俺たちにもメジャーっぽい原稿を読ませてくれよコノヤロウと思って書きました Sir!!



ハナっから、メディアミックスの原作つきマンガを描きたいと思う種類の人間は、当然のことながら同人活動をしているがゆえに、リビドーが満足してしまっていて、持ち込みまでの距離を埋める精神エネルギーが残っていないと思うのであります、推忍。

Sir!! たかだか年に数冊、100ページにも満たない量の同人原稿で枯渇してしまうリビドーでは、その4・5倍もの生産量を求められるプロには到底なれないと思うのであります。 Sir!!



さらにいうと、既に「アシスタント」と「同人作家」のグループは、かなりの比率で被っていると思われるので、がんばってアシスタントをプロに転向させても同人作家にしか見えず、どうにもならんと思うのであります、サー。

Sir!! これについてはまったくその通りであります。 Sir!!



(略)「非同人マンガ家デビュー」というのが、 「8頭身モデル並みにスマートで巨乳の、性格の良いツンデレ美人彼氏なし)」 くらいに存在確率の低い生き物だと思えてきます。そういうのは私の知る限り、テレビ局近辺にしか存在しません。

Sir!! テレビ局近辺の女人が過酷な競争を勝ち抜いてきた猛者であるように、それくらい希少な才能でなければ原作なしのオリジナルマンガをヒットさせることなどできないのであります。ほどほどでいいなら同人作家だけでいいわけで、それではだめだと思っているから希少種を求めて門を開いているのであります。 Sir!!


Sir!! コミホリでの御武運をお祈りいたしております。 Sir!!




続きまして、bullet様の「からんでるわけじゃないの。」


「○作家を探す・作家を選ぶ」なんだけど、この項目が何で最初なんだろう、と。この項目の前に、「○作品(原作)を探す・作品(原作)を選ぶ」って項目がない?

あの記事はマンガ編集者一般について書いておりますので、私がやっているような特殊な仕事については言及しておりません。後日別エントリを立てて書くつもりでおります。


編集担当が同じで、編集方針もおそらく一貫しているはずなのに、こんなにも面白さの差が一目瞭然なのは、何でなのか。

本日の1本目のエントリで書いた理由が1つ、後日書くつもりでおります「性格という名の才能」の問題が1つ、不特定多数人間が見る場では書けない問題が1つの、3つの理由があると考えております。




この雑記は、社員だと書けないけれども、フリーならかろうじて書けるという範囲を測ってやっております。たとえフリーでも書いたら干されるといったレベルの話題には言及できませんので、その辺はご理解いただきますようお願いします。

2007-09-30

ちょっとハンサム

[]電撃G'smagazine11月号発売

昨日は電撃文庫ではないレーベルライトノベル作家さん5人と密会をし、肉を食らってきました。

密会ですので詳しい内容はお話しできませんが、某氏の「マンガ業界のほうから見ると、今ライトノベルはすごく勢いがあるように見えるかもしれないですけど、僕たちのほうからすれば、マンガのほうがずっと輝いて見えます」という一言が妙に印象に残った会合でした。


さて。昨日電撃G'smagazineの11月号が発売されました。

私が担当しております、しゃあさん(重度の鍵信者)作画のマンガ版「CLANNAD」の4話が掲載されております。TVアニメ放送記念で表紙も巻頭特集もCLANNADになっておりますので、原作ファンやアニメに興味のある方にぜひご覧いただきたく思います。


[]マンガ雑誌マニアの読み物である

昔はコロコロ派とボンボン派、ジャンプ派とマガジン派とサンデー派、キャプテン派とコミックコンプ派など、ひいきにするマンガ雑誌グループがあって、同好の士同士で盛り上がったり、他派のセンスの無さをあげつらったりしました。最近の若い人たちも、主にネット上でライトノベルレーベルごとの派閥を作って、似たようなことをやっていると聞くのですが、マンガではついぞ聞きません。


昔はマンガ雑誌の数そのものが少なかったので、やろうと思えば興味のあるマンガ誌すべてに目が通せました。今はあまりに数が多くなりすぎて、財布と時間と気力と部屋のスペースが追いつきません。


昔はおこづかいで買った雑誌と、クラスの中での回し読みと、床屋マンガのすべてでした。単行本はよほど好きな人だけが買うマニアックな品でした。今はテレビで単行本の売り上げ上位を確認し、アニメドラマの原作を手に取り、ネットで評判の作品をamazonで取り寄せるようになりました。


雑誌が刷り上がると、かなりの数の束が編集部に届いて、関係者に見本誌として配られます。荷解きをしている時に、この雑誌を読むのは関係者と業界人とマンガレビューサイトの管理人だけで、他の人は存在すら知らないのではないか、と思うことがあります。


今、毎号読者に心待ちにされているマンガ雑誌がどれだけあるでしょうか。人気があるマンガ、面白いマンガ情報が簡単に手に入り、その単行本の新刊が毎日のように書店に並ぶ状況で、特定の雑誌をひいきにすることに何かメリットがあるでしょうか。レビューサイトの管理人と、重度のマンガ読み以外の人に、マンガ雑誌は必要なのでしょうか。残念ながら、たぶん必要ではない、と私は感じています。


しかしそれでも、たとえ読者のためではないにしても、マンガ雑誌を出し続ける必要が出版社にはあるのです。これについてはまた日を改めて解説いたします。