社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:景気対策 「100年に1度」が前提か

 政府が4月の月例経済報告で、「急激に悪化が続いており、厳しい状況が続いている」という基調の景気判断は維持しつつも、公共投資や輸出に改善の動きが出ていることを認めた。また、このところ消費者態度指数などにも底打ちの兆しが見える。米国でも住宅や自動車関連指標の回復を受け、オバマ大統領やバーナンキ連邦準備制度理事会議長が先行きについて、やや楽観的な観測を示している。

 一方、国際通貨基金(IMF)は今回の世界的な景気後退が異例に長期化するとの見通しを明らかにしている。もともと、実物の裏付けの乏しい金融取引でバブルを膨らませてきた景気であり、それがはじけるのは当然のことだ。しかも、金融グローバル化で、影響が甚大なものになることは避けられない。それが、生産や消費など実体経済にも深刻な被害を及ぼしているのが現在の姿だ。

 事実、実体経済の状態は日米欧、途上国ともにはかばかしくない。

 世界的にみれば山が高かった分、谷は深い。簡単に上向くことが期待薄なことは明らかだ。では、いまのままでは、ここ1、2年絶望的な経済状態が続き、それを回避するためには、ひたすら財政出動を柱とした景気対策を講じていかなければならないのか。

 経済は時々刻々動いており、状況も変化している。今回の世界的な金融分野の破綻(はたん)は構造そのものにかかわっている。金融サミットなどで合意されている金融システム改革はそれへの施策だ。同時に、今回の景気の落ち込みは循環の一局面であることも忘れてはならない。最近、景気底打ちや持ち直しを示唆する指標がわずかではあるが表れている。景気落ち込みが底に近付いていることを示しているのかもしれない。

 景気対策を講ずるに当たっては、この二つの関係を解きほぐし、それぞれ、この時点で最も適切と思われる施策を考えなければならない。

 ところが、先に政府・与党が決定した経済危機対策と名付けられた追加景気対策に象徴的に示されているように、「100年に1度の危機」を所与の前提として、何をやってもいいという流れになっている。

 米国の住宅バブルのもと、高くなった生産能力を満たすことに精力を注ぐことには問題がある。適正な生産水準まで整理しておくことが必要だ。財政による需要追加の限界も認識しておかなければならない。財政の大盤振る舞いが残すだろう財政悪化がその最たるものだ。日本のみならず、米国でも財政状況は急速に悪化している。このまま放置できないことは明らかだ。

 景気の読み方に予断は禁物だ。

毎日新聞 2009年4月21日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報