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小沢民主党代表の秘書逮捕からの1カ月半を振り返ってみる。2大政党の姿も、それを取り巻く状況も、逮捕の前と後とでがらりと変わった。
千葉と秋田の県知事選で民主党が支援した候補が連敗した。国会論戦でも民主党は精彩を著しく欠く。与党が再三要求する党首討論に応じようとしない小沢氏の逃げ腰が象徴的だ。
小沢氏は秘書逮捕以来、中断していた地方行脚をようやく再開したが、総選挙に向けて与野党の激突モードだった政局はすっかり凪(なぎ)の様相である。
受け身に回った民主党の低迷を何より雄弁に物語るのは、あれほど強く叫んできた「早期の解散・総選挙」を求める声が、議員たちからほとんど聞かれなくなったことだ。
代わりに息を吹き返したのは麻生首相である。逮捕前、朝日新聞の世論調査で13%と超低空飛行だった内閣支持率は26%まで回復した。決して高い数字とは言えないものの、政局の主導権を奪い返したようにさえ見える。
5月解散なのか、はたまた夏解散なのか。いずれにしても秋までに総選挙がある。政府与党は大盤ぶるまいの補正予算案を編成し、選挙準備を着々と進めている。一方で、民主党のマニフェストづくりは足踏みしている。
政権奪取の日に近づきつつあるかに見えた民主党の勢いが急失速した原因は、言うまでもない。違法献金事件で生まれた有権者の疑念や不信をそのままに放置しているからだ。
小沢氏に代表辞任を求める人は依然として6割に及ぶ。あれだけ巨額の献金をもらい続けてきたゼネコンと、どのような関係があったのか。どんな献金でも、政治資金収支報告書に記しておきさえすれば受け取っていいのか。そんな根本的な疑問に対して、小沢氏の説明はまったく足りない。
民主党の政党支持率は下がっていない、反転攻勢は可能だ、との声も党内にはある。だが、このまま解散・総選挙になだれ込んだらどうなるか。
事件について、自民党をはじめ他党に攻め立てられるのは小沢氏ひとりではない。全国の選挙区で、民主党の候補者が釈明と弁解に追われるだろう。
05年の郵政総選挙で自民党を大勝させたのは、郵政民営化にかける当時の小泉首相の執念だった。2年後の参院選で、今度は小沢氏の下で民主党が大躍進したのは、是が非でも与野党逆転を果たそうという決意だったろう。
民主党が、次の総選挙でいよいよ政権交代をと言うのなら、そのための覚悟と執念を見せるべきではないのか。党内の亀裂を恐れず、小沢氏の進退問題に真正面から取り組むことだ。
事件に対する厳しい視線から目をそらし続ければ、政権交代への有権者の期待は、確実に失望へと変わっていくに違いない。
この一歩から、東西冷戦の遺物のような対立の解消に向けて進んでほしい。そんな期待を抱かせたのが、カリブ海のトリニダード・トバゴで開かれた米州機構(OAS)の首脳会議だ。キューバ以外の中南米32カ国と米国、カナダの首脳が参加した。
中南米は、かつて米国の「裏庭」ともいわれた地域だ。だが新自由主義の経済政策の失敗もあり、ブッシュ前政権時代に左翼政権が次々と誕生した。ロシア海軍が昨年、カリブ海でベネズエラ海軍と合同演習するなど、米国を露骨に牽制(けんせい)する動きも相次いだ。
そうした険悪な空気は、対話路線を掲げるオバマ米大統領の登場で、大きく和らいだようだ。
ベネズエラのチャベス大統領は、オバマ氏に「友人になりたい」と語りかけ、植民地支配された中南米の歴史を描いた愛読書を贈った。会談後は召還していた駐米大使を新たに任命して、対米関係の修復への姿勢を示した。
チャベス氏は、国連演説でブッシュ氏を「悪魔」とののしった反米の急先鋒(きゅうせんぽう)である。対話の姿勢は、オバマ外交が生んだひとつの成果だろう。
首脳会議の主役は、その場にいないキューバだった。
会議はかつて、米国が主導してキューバに民主化への圧力をかける舞台でもあった。今回は逆に、対キューバ制裁を解除するよう参加国がそろって米国に求めた。穏健派の国も含めてすべてがキューバと復交したか、復交する意向を表明している。孤立しているのは、いまや米国なのだ。
オバマ政権は会議前に、キューバに対する制裁を一部緩めた。キューバに親族がいる米国人の渡航と送金の制限を大幅に緩和し、米国企業が携帯電話事業などに参入することも認めた。キューバとの間の人や情報の流れを太くするねらいだ。
「反カストロ」一色だった在米キューバ人社会も世代交代が進んだ。キューバとの関係正常化を求める声は強まっている。歓迎すべき動きだ。
キューバ側も、オバマ政権に呼応している。フィデル・カストロ前国家評議会議長は「人権や政治犯の処遇を含むすべてを対等の立場で話し合う意思がある」と表明した。
キューバ革命から半世紀。ようやく両国の不毛な冷戦に終止符を打つ機運が生まれた。
キューバ政府も、政治犯の釈放など具体的な行動でこたえてほしい。いまこそ大胆な開放・改革政策を打ち出す時期ではないか。
首脳会議でオバマ氏は「立場の違いはあっても、共通の利益のために働くことができる」と強調した。米国とキューバの関係改善が、オバマ氏の言う中南米諸国との「新時代のパートナーシップ」の基礎になるだろう。