基礎年金の国庫負担割合を現行の三分の一強から二分の一に引き上げる国民年金法等改正案が、衆院本会議で与党の賛成多数で可決され、直ちに参院に送付された。
政府、与党は「持続可能な年金制度にするための国民への約束」(舛添要一厚生労働相)と法案の重要性を強調した。野党が多数を占める参院で早期に法案が否決されれば直ちに衆院で再可決し成立を図る方針だ。
一方、民主党は基礎年金の全額税方式導入など現行制度の抜本的見直しを求める立場から、政府案には反対の姿勢を示している。年金問題が争点となって大勝した前回参院選の再現を狙って年金問題を近づく衆院選の争点に据える思惑が見える。
衆院の審議では国民年金保険料の納付率が向上しなければ、将来の厚生年金の給付水準は政府が約束した「現役世代の収入の50%」を割り込むとの試算を厚生労働省から引き出した。
参院でも「今までの年金議論の集大成として臨む」として、国会会期にこだわらず長期審議も辞さない構えを見せている。その場合、政府、与党は「六十日ルール」を使った衆院再可決による成立を視野に大幅な会期延長を迫られる。
麻生太郎首相が五月解散を選択した場合は、法案は審議未了で廃案となる可能性もある。年金問題は後半国会の重要な争点となろう。
基礎年金の国庫負担引き上げは、二〇〇四年の年金制度改革で〇九年度までの実施が決まった。年金の社会保険方式を維持するのが狙いだ。年間二兆五千億円の財源が必要となる。国庫負担引き上げが遅れると、保険料引き上げや年金給付水準が低下する恐れがある。
政府は財源として〇九、一〇年度は財政投融資特別会計の積立金(霞が関埋蔵金)を充てる方針だが、埋蔵金の活用はあくまでも特例的措置である。二年分は確保できたとして、その後はどうするか不透明なままだ。
本来は消費税率の引き上げなどによって「安定財源」を確保するというのが政府方針だったが、国民の間に明確なコンセンサスはできていない。
財源が不明確なままでは、国民の年金への信頼を取り戻せるはずがない。年金記録不備問題も一向に解決が見えず、若い世代には保険料を納めても、将来受け取れるのか不信感が強い。
「百年安心」の年金制度にするためには、与野党は年金の制度設計まで踏み込んで議論を深める必要がある。
政府が閣議決定した二〇〇九年版少子化社会白書は「日本は少子高齢化が世界で最も進行している」と警告した。
合計特殊出生率は、〇七年は前年より微増の一・三四と二年連続で上昇し、〇八年の出生数も増加の見込みだが、決して楽観できる状況ではない。
〇八年の人口推計では、六十五歳以上の老年人口は22・1%に達し、ゼロ―十四歳の年少人口は一九八〇年代から減り続け13・5%にとどまった。生産年齢人口(十五―六十四歳)は、〇九年の八千百六十四万人から五五年には四千五百九十五万人にまで減少する見込みだ。
少子高齢化の進行で日本は急ピッチで人口が減少している。このままでは経済や社会保障など多くの分野で深刻な影響が出る。女性や高齢者、障害者ら意欲ある人が参加できる労働市場の仕組みづくりが急がれる。
白書は、少子化の要因として晩婚化と晩産化を挙げている。政府の調査によると、未婚者の九割は「いずれ結婚したい」と考え、子どもの数も二人以上を望んでいる。希望が実現すれば、出生率は一・七五に上昇する可能性がある。
希望と現実の乖離(かいり)を生み出しているのは、不安定な雇用、子育てと仕事の両立不安、教育費の重い負担などである。少子化対策として、若者の生活基盤を安定させることが重要になる。仕事と家庭や育児を調和させた働き方が求められる。欧州では両立を支援する政策で、出生率上昇に効果を上げていることにも注目したい。
白書は、景気悪化による就職難で、ニートやフリーターらの自立が妨げられる恐れも指摘している。少子化に歯止めをかけるため、雇用のミスマッチ解消やキャリア教育推進など就労支援の取り組みも欠かせない。
(2009年4月20日掲載)