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受け継がれない教訓

Mankiwがマイナス金利を提案している。ところが奇妙なことに、ゲゼルやケインズの名前を出しているのに、クルーグマンの1998年の論文には言及しないで「バーナンキはインフレ目標論者だから、それをやればいい」という。人為的インフレ論を新たに発見したような書きぶりで、日本で10年前から論争が行なわれてきたことも、クルーグマンがそれを撤回したことも知らないようにみえる。

これが英米人の日本に関する平均的な認識なのだろう。「日本の失われた10年に学べ」などとリップサービスはしても、読むのは英語の文献だけだから、マーティン・ウルフは地底人の話を鵜呑みにして「バラマキ財政が日本を救った」などと書き、クルーグマンはさらにそれを受け売りする。ロゴフに至っては「中央銀行が紙幣をどんどん印刷すればインフレが起こる」と信じられない提案をするありさまだ。

私の知るかぎりでは、日本人がこの問題について英語でまとまった情報を提供したのは、先月のブルッキングスのシンポジウムぐらいだ。その議事録を読んでも、アメリカ人が地底人の話を何度も引き合いに出し、竹中平蔵氏がそれを打ち消すのに苦労している。他のアメリカ人も「消費税の増税が景気の腰折れをまねいた」などという俗説をいまだに信じている。

学問的な論文としても、いまだに包括的な実証研究はHayashi-Prescottぐらいしかなく、一般向けの英文の解説は地底人の本だけだ。白川総裁もいうように、アメリカの混乱した不良債権処理はますます日本に似てきたので、日銀が90年代の教訓と政策論争を英文でまとめて、ウェブサイトに発表してはどうだろうか。

私も微力ながら、英文ブログでMankiwへの疑問を書いた。「失われた10年英訳Wiki」でもやるか・・・

追記:やはりKrugmanがこうコメントした。二転三転してはいるが、無理だというのが結論のようだ。
And again, the inflation commitment has to be credible. So I don’t think we’re ready for this, not yet.
コメント ( 8 ) | Trackback ( 2 )
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コメント
 
 
 
こんな本もあります (sameike)
2009-04-20 02:19:36
IMFが99年に出した本があります。

http://www.amazon.com/Post-Bubble-Blues-Japan-Responded-Collapse/dp/1557758727/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1240161124&sr=8-2

ただ99年出版なので失われた15年の総括とは言えないかもしれません。

日本の経済学者はとにかく英語での発信能力が低すぎるのではないでしょうか?だからリチャード・クーのように英語で発信できるだけで差別化できてしまうということだと思います。

経済学ランキングでも日本の大学が100位にも入らないというのもまさに英語の発信能力の問題ですよね。

経済学者に限らず英語での受信発信能力が低いことがどれだけ今の世界情勢で不利かと自分の自戒もこめてつくづく感じます。
 
 
 
直接メール? (ぽえぽえ)
2009-04-20 04:38:55
池田さんがメールで直接Mankiwさん宛てに注意を促すとかはどうでしょうか。NYTのアカウントをもっていれば、記事の著者へ直接メールもできるはずだと思います。

ブログでコメントとかトラックバック受け付けてないと、こういうときに不便ですね。
 
 
 
金融市場という賽の河原で石を積む (ひろ"ゆ"き)
2009-04-20 06:33:55
>日銀が「インフレ目標」を掲げればインフレが起こる
>バーナンキが「インフレ目標」に言及したと喜んでいる向きもあるが、この程度のゆるやかな目標なら、日銀も「物価安定の理解」として公表している。
>バーナンキやクルーグマンがかつて主張したのは、デフレ状況で日銀が「インフレにするぞ」と言ってめちゃくちゃに通貨を供給すればインフレが起こる、という人為的インフレ政策である。
>今そういう愚劣な主張をしている経済学者は、日本以外にはいない。


>実質金利が自然利子率を下回っているとき、日銀が行なったゼロ金利や量的緩和は、結果的には円キャリー取引を誘発して、アメリカの住宅バブルを促進した。
>バーナンキが行なっているリスク資産の購入も、過大なリスクテイクによってFRBが巨額の損失をこうむると、金融システムへの信頼が崩壊するおそれがある。


日本の金融当局がこの10年間に行ったことはバーナンキ氏やクルーグマン氏らがかつて主張したことを実行したのです。

その「日銀が行なったゼロ金利や量的緩和は、円キャリー取引を誘発して、アメリカの住宅バブルを促進し、(今の100年に一度と言う)」世界的な金融危機を誘発しました。


>Mankiwがマイナス金利を提案している。クルーグマンの1998年の論文には言及しないで「バーナンキはインフレ目標論者だから、それをやればいい」という。
>人為的インフレ論を新たに発見したような書きぶりで、日本で10年前から論争が行なわれてきたことも、クルーグマンがそれを撤回したことも知らないようにみえる。

それはバーナンキ氏やクルーグマン氏の「金融政策」の日本における失敗、を欧米人たちは知らないと言うことでしょうか?
 
 
 
Unknown (pk-uzawanian)
2009-04-20 09:16:09
日本人が永遠に道路を作り続ければ、諸外国は安心だし、朝日新聞も市民も文句を言わない。
失われた10年の本質が理解されないようにすることも、対日戦略の重要な柱です。
戦前の日本がなぜ滅びて、戦後の日本がどう形成されたか?と同様に。
 
 
 
Unknown (pk-uzawanian)
2009-04-20 12:08:45
日本と米国は歴史も文化も資源も違う国なので、問題も違っていると思います。
米国の問題は、戦略の歴史的な行き詰まりだと思います。広大な領土を持つ軍事国家として、世界的に軍事力を展開し、北米では防御力のある分散型の資産形成を実現しようとしていることが、経済の要求する効率性と両立しなくなってきていることです。輸送の分散化が自動車文化であり、情報の分散化がインターネットです。エネルギーの分散化がスマートグリッドですが、これらを現実の資産として実現するには膨大なお金が必要で、実際にはうまくいかないのです。
日本の問題は、成長が止まった局面にあることを受け入れていないことです。さらに、米国から強い束縛を受けているので、それへの適応を阻害されている面もある。人口の縮小以上に需要構造が急速に変化しているのに企業が追いつけない。縮小と拡大が同時に起きる局面は、拡大だけの高度成長期より適応にはもっと難しい
 
 
 
竹中平蔵氏 (ひろ"ゆ"き)
2009-04-20 12:43:52
竹中平蔵氏によると日本の法人税を現在の40%から香港並みの20%にすれば国内産業の流出を止め、各国から企業を誘致することが出来るそうです。

>耄碌爺氏
>法人税は累進課税ではなく、定率税です。いかに利益をあげている企業でも事業税と合わせて5割以上の税金を取られることはありません。
>フランスでは零細企業の法人税は選択制で利益に関係なく一定の金額(確か40万円位)又は日本と同様、定率の利益に比例した税金、の好きな方を選べます。日本でも検討の余地があります。

是非とも法人税を減税して、新規の企業家が続出して欲しいものです。


>私の住む大田区には大勢の中国人が住んでますが、彼らの企業家精神はたいしたものです。食堂、指圧等2−3年で店をどんどん増やしていきます。
>一般のサラリーマンとして日本で働けないのでリッチになるには自分で起業するしかないのです。
>退路を断たれれば人は彼らのよう底力を発揮するはずだが日本人は諦めるだけなのが残念だ。

そうですね、日本人は戦前・戦後に様々な国々に移民として移り住んでゆきましたね。
その事を題材にした、『蒼氓』などを著した石川達三のエッセーを思い出しました。

「アメリカに移民した中国人は"チャイナタウン"を形成したが、日本人はタウン・町に及ばない"リトル・トーキョー"しか造れなかった。
中国人は同胞を自分の兄弟だ、甥だと言ってかの地に同族を集め寄せ、店を任せ大いに繁盛した。たが、日本人は同じ移民の同胞の成功を妬んで、当局に通報した。
アメリカ人の官憲は日本人の行動を不思議に思った。…」
 
 
 
続き (池田信夫)
2009-04-20 19:02:39
Mankiwがフォローしています:

http://gregmankiw.blogspot.com/2009/04/observations-on-negative-interest-rates.html

マイナス金利を弁護するのに懸命で、インフレ目標はちゃんと考えてないようです。これはマクロ経済学者としては、いかがなものでしょうか。これはWoodfordなども議論しており、理論的にも重要な問題です。

今後、アメリカで「リフレ論争」が始まる可能性もありますが、くれぐれも日本の不毛な論争の再放送は避けていただきたいものです。
 
 
 
微力ながらtwitterで紹介 (mikeexpo)
2009-04-20 21:39:34
実は10日前くらいからtwitterを始めたのですが、何故か外国人と思しき人たちが、フォローを始めています(おそらく、ブルームバーグ等の記事をそのまま英文で貼り付けたのと、小生のHNが日本人らしくなかったため)。

先ほど、Truth about Japanの記事を、勝手ながらtwitterでご紹介しました。

彼の地で多くの人が読んでいただければいいのですが。
 
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