薬物乱用が止まらない。特に、俳優・中村雅俊さん(58)の長男(31)も逮捕(14日に起訴猶予)された大麻汚染は広がりを見せている。「たばこより無害」と信じる人もいるが、待ってほしい。大麻は覚せい剤にもつながる「薬物連鎖の玄関」なのだ。【根本太一】
「誰かに追われている」。川崎市の岡崎重人さん(28)が身の危険を感じたのは、21歳の秋だった。友人のアパートでコカインを吸った帰り道。自宅に戻ってトイレへ隠れるように駆け込んだ。数時間たっても「襲われるかもしれない」恐怖は消えず、一人おびえて窓の外をうかがった。
最初は大麻だった。以前、鉄製の筆箱に隠していた大麻を母親に見つかったことがある。「ハーブ」と言い繕ったつもりが、適当に名を挙げた「買った店」まで母は確かめに行き、うそが知れた。「絶対にやめる」という言葉だけは、信じてもらえた。
今度は違う。知識は持っていたけれど、実際に体験した妄想・幻覚は衝撃だった。「二度と手を出さない」。そう約束し母は安堵(あんど)していたが、心の中で舌打ちした。「イカれた原因はコカイン。大麻は悪くないんだよ」
薬物に手を出したのは、教師を目指した大学受験に失敗したころ。同級生に誘われ大麻を吸った。「パッと楽しくなって。また『いきたい』と思ってさ」。月に1回のペースが2回、週1回になった。
外国人の密売人から買うと1グラム当たり5000円。高純度で「効く」物は1万円。アルバイト代では追いつかず万引き、恐喝、消費者金融からも借金した。予備校を経て入った大学も、薬物のせいか、意欲がうせて中退した。
「化学合成の麻薬と違って大麻はナチュラル(天然)で安全」。いったんは「薬物から逃れる」と宣言し北海道で1人暮らしを始めたものの、大麻をやめる気は毛頭なかった。現地で就いた警備員の職は、勤務中の吸引が知れて解雇された。仕事の合間に、大麻の自生場所を見つけていた。
「9月ごろになると大きく育って、収穫できるんだ」。もう金は必要ない。どっさりアパートに持ち帰り、大麻と酒に酔える。たまには人にも売って生活費も稼ぎ出す。来年も、春になればまた芽が生えるだろう--。大麻でも、コカインと同様、神経を侵されるとは思っていなかった。23歳のある日、ふと背後に人の気配がした。
「誰かに追われている」
2009年4月15日