労働審判制度を利用してみました

自分で書類を書き、スピーディーな審理で納得

大谷 憲史(2007-06-29 17:00)
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 2004年5月12日に「労働審判法」が公布され、労働関係に関するトラブルを迅速、適正かつ実効的に解決するための「労働審判制度」が、2006年4月から実施された。

  近年、解雇の効力に関するトラブルや賃金や退職金の支払に関するトラブルなどが増加している。「労働審判制度」は、こうした事業主と労働者との間に生じたトラブル(個別労働関係民事紛争)について、通常の訴訟よりも短い期間で、事案の実情に即した柔軟な解決を図ることを目的としている。労使の専門家が審理、判断に加わるこの制度は、国民の司法参加の一つの形態であり,司法制度改革の一環として導入された。

 今回、私の解雇問題に関して、この「労働審判制度」を利用した。

 訴状にあたる「労働審判手続申立書」は、通常、弁護士に作成してもらうことが多い。私は、弁護士会の30分5000円の相談を利用し、弁護士と話し合ったところ、この程度のものであれば、自分でも申立書は作成できるとのことであった。ちなみに、弁護士に依頼した場合、訴えの内容によって金額は違うが20~30万円はするとのこと。

 私が解雇された翌日の5月7日、申立書を作成するために、宮崎地方裁判所へ出かけた。
 
 担当の職員は、私を怪訝(けげん)な顔つきでみていた。やはり、弁護士が申立書を作成するのがほとんどで、素人が作成することはほとんどないため、申立書のひな型や手引書はないとのことであった。担当の方は、労働審判法関係のファイルを引っ張り出し、コピーしたものを渡してくれた。それに書かれているとおりに、書類を作成すれば問題はないとのこと。

 1ページ目に「申立人の氏名・住所・連絡先」「相手方の会社名・氏名・住所・連絡先」「事件名」「労働審判を求める事項の価額」「ちょう用印紙額」を、2ページ目以降に「第1:申立ての趣旨」「第2:申立ての理由」「第3:予想される争点及び争点に関連する重要な事実」「第4:申立てに至る経緯の概要」「証拠方法(証拠書類等の一覧)」「付属書類(相手方の登記簿謄本等)」を項目別に書いていった。

 申立書はA4版で4枚、証拠書類は、すでに労働基準監督署に、これまでに提出していたものを14点ほど用意した。問題となったのは、事件名と労働審判を求める事項の価額であった。
 
 今回の申立ての趣旨は、「不当解雇であることを確認し撤回してほしいこと」「地位の保全は求めず解決金を請求すること」の2点である。この趣旨を網羅した事件名となるが、特に定めはなく、労働審判関係の書籍を参考にして、「不当解雇解決金請求労働審判事件」とした。

 今回の場合、労働審判を求める事項の価額は2つある。1つは、不当解雇に関する価額で、これは金額に換算して、160万円と言うことが決まっている。もう1つは、私が請求する解決金である。申立書に記載する価額は、どちらかで額が高いほうと決まっているので、160万円を記入した。が、これはあくまでも「労働審判制度」での決まりごとで、審判の結果、私が160万円を請求できるというわけではない。

 ちょう用印紙額は、申立書に記載した価額に対する印紙代であり、今回は6500円であった。これ以外に、通信用の切手として3000円分を支払った。

 5月8日、申立書及び証拠書類は5部ほどコピーして、宮崎地方裁判所民事部へ提出した。翌日、細かな加筆修正で呼ばれはしたが、間違いなく受理された。また、第1回目の審理が6月13日に決まったことも伝えられた。

 5月29日、相手方から答弁書が出されたとのことで、地方裁判所へ取りに出かけた。3000円分の切手を裁判所に渡しているのだが、迅速な対応がモットーの「労働審判制度」のため、地方裁判所に取りに行ける場合は、直接書類を渡すようにしているとのことである。

 相手方の答弁書を読み、私のほうで争点を整理し、「証拠説明書」を作成した。答弁書に従い、新しく証拠書類を提出する必要があったからである。証拠説明書は、第1回審理当日に持参して構わないとのことだったので、必要部数の5部ほどコピーして準備を整えた。

 6月13日、第1回審理。

 「労働審判」は、労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2人の、合計3人で構成する労働審判委員会によって行なわれる。審理は3回以内と決まっており、その期日内において、トラブルに関する双方の言い分を聴き、争点を整理し、必要な証拠調べを行うことになっている。

 労働審判委員会側では、あらかじめ双方から出された申立書及び答弁書を読んでいるので、申立人及び相手方から意見を聴くというよりも、補足があれば話すという形となった。双方とも提出した書類に基づいて話をした。労働審判員から、何に基づいての解雇なのかという法的根拠が示されていないため、この解雇は不当であり無効であることを告げられた。

 労働審判委員会は、審理の過程で、話合いによる解決の見込みがあれば調停を試み、調停が成立しなければ「労働審判」を行うことになっている。

 解雇が無効であることを受けて、話し合いは、解決金の額の調整に移った。最初に、労働審判員から解決金の内訳のなかで、解決金から除外されるものの確認が行なわれた。その後、労働審判委員会側と申立人及び相手方が個別に話し合いを繰り返し、解決金の額及びその支払い方法について調整を図った。

 この個別の話し合いに時間がかかったが、双方とも納得できる形で調停が成立した。

 これで、今回の労働審判は終了した。審判に要した時間は1時間30分程度であった。翌日、調停成立の調書をいただいた。

 「労働審判」のほとんどは、第1回の審理で解決することが多いということである。たとえ審理が、3回に及んでも3カ月で終了する。

 通常の訴訟では時間がかかり、仕事を休んで何度も裁判所に足を運ぶことを考えると、この「労働審判制度」は、使用者及び労働者にとっては、ありがたい司法制度である。

 しかも弁護士に頼らなくても、裁判所へ出かければ、なんとか自分で申立書を作成することができ、審判費用も低く抑えることができる。私の場合は、当初の弁護士会での相談費用5000円と印紙及び切手代の9500円の合計14000円で済んだ。

 「裁判員制度」が注目されているが、この「労働審判制度」も注目されるべき司法改革の1つである。労働問題でトラブルを抱えている方は、ぜひ利用して欲しい。



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