教科『徳育』は日本の教育を再生できるか

教育再生会議第二次報告から見える日本の危うさ

大谷 憲史(2007-06-21 23:00)
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 6月1日、教育再生会議は総会を開き、安倍首相に「第2次報告」を提出した。この報告は、

  1 学力向上にあらゆる手立てで取り組む~ゆとり教育見直しの具体策~
  2 心と身体~調和の取れた人間形成を目指す
  3 地域、世界に貢献する大学・大学院の再生~徹底した大学・大学院改革~
  4 「教育新時代」にふさわしい財政基盤の在り方

 の4つから成り、それぞれに対して提言や具体策がまとめられている。

 この第二次報告書のなかで、「2心と身体~調和の取れた人間形成を目指す」のなかの提言1が大いに気になった。

【提言1】すべての子どもたちに高い規範意識を身につけさせる
徳育を教科化し、現在の「道徳の時間」よりも指導内容、教材を充実させる(対象は小中学校で、専門の免許は設けず、学級担任が担当する。多様な教科書と副教材を機能に応じて使う。点数での評価はしない)。

◇ 山谷えり子首相補佐官の発言は問題あり!

 1日夜のニュース番組で、教育再生会議事務局長の山谷えり子首相補佐官は、

 「学校によっては、道徳の時間の年間計画がなかったり、きちんと行われていなかったりしている。そのようなことをなくすために、教科に格上げしようとしている」

 と発言した。

 この発言は、大いに問題がある。公教育は、教育基本法及び学校教育法のもと、法的拘束力のある「学習指導要領」に基づいて行われている。小学校に限っていえば、年間の授業週数は標準で35週(1年生は34週)となっており、道徳の年間授業時数は1年生では34時間、2~6年生では35時間となっている。つまり、1週間に1回は必ず「道徳の時間」を行わなければならないのである。

 山谷首相補佐官の話が事実であれば、「道徳の時間」を実施していない学校をすぐに調査し、教育委員会による教育的指導を行わなければならない。根拠があって話をしているのか、国民へのリップサービスとして話しているのか。

 いずれにしても日本の教育を再生する最前線にいる人間の発言とは思えない。教育再生会議及び政府は、現行法を無視している学校を放置していいのだろうか。

◇ 多様な教科書と副教材で何が変わる?

 私は教員時代、市教育委員会が主催する「道徳研究部会」の部会長をしていた。その当時、1校単独では道徳の年間指導計画(カリキュラム)を作成することが難しい学校もあったので、月1回程度市内の先生方が集まって情報交換を行っていた。道徳のカリキュラムを作成したり、研究授業を行ったりした。また、少しでも子どもたちの規範意識を高めようと、手作り教材に関する情報交換も行ってきた。

 今回の第2次報告では、「多様な教科書と副教材を機能に応じて使う」と提言しているが、今でも多様な副教材は利用している。

 さすがに教科書はないが、「道徳副読本」として教育委員会が採用して学校現場で利用している。地域の偉人の話や昔話を取り入れた地域性のある副読本や、最近の時事問題を取り上げた副読本も存在している。

 道徳の価値観は、いつの時代にも変わることはない。情報社会に暮らす子どもたちにすれば、自分の生活環境とあまりにもかけ離れた副読本で学ぶことに対して、私の指導の限界を感じたこともあった。

 学習指導要領では「多様な資料と活用の創意工夫」を積極的に進めており、子どもたちの心に響く資料を選定するように書かれている。私も、結構な数の手作り教材を使って道徳の時間を行った。いつの間にか、私も子どもたちも、他の教科よりも道徳の時間が楽しくなっていた。

 現行では、学習指導要領に従っていれば、どんな副読本及び資料を使って、道徳の時間を行うかは担任教諭の裁量に任される部分が多い。

 しかし、今回の報告では,「多様な教科書」となっている。文部科学省検定の教科書を使用するとしており、道徳や規範の枠組みを、国が検定すると言うことになる。

 確かに、子どもによる凶悪な犯罪やいじめ、学級崩壊などの今の社会の現状は厳しい。

 国が、道徳や規範の枠組みにまで入り込むような教科書で、子どもたちの規範意識を高め、公共心を身につけさせることができるのだろうか。

 国の検定を受けていない教科書は、内容がすばらしく子どもの心に響いても使えないのである。受け持ちの子どもたちのことを考えながら、教材を手作りし、子どもたちの喜ぶ顔を想像しながら、道徳の授業の準備をすることが、これからは、できなくなってしまうのだろうか。

◇ 現行の枠組みで十分である

 昔、私が子どもの頃、堀江謙一氏の「太平洋ひとりぼっち」を道徳の時間で学び、いろいろなことに挑戦したいと思った。「命を考える」授業では、私は、子どもたちに資料を読んで聞かせているうちに、涙があふれ、子どもたちと話し合った。

 道徳の時間には、答えはない。先生と子どもたちの価値観がぶつかり合う貴重な時間である。道徳の時間で学んだことは、学校生活のあらゆる場面で活用できるだけではなく、学校生活自体が道徳の場でもある。『徳育』と言う教科の時間だけでは学べないことも多い。

 私は、『徳育』の教科化には反対である。現行の枠組みにおいて、国は、先生と子どもたちが心の余裕をもって、何でも話し合い、解決できるような学校の雰囲気づくりを整備することに力を注ぐべきである。

 子どもたちの規範意識を高め、個性を磨く貴重な時間に、「国」が、「教育」を振りかざして、教育現場に、すーっと入ってくるところに、今後の日本の危うさが見えてくる。



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