2008年7月2日
書を捨てて町へ出ようと西麻布のミシュラン☆レストラン
「ラ・ボンバンス」のオーナーシェフ岡元さんの料理教室
に参加した。
題して、
「ラ・ボンバンス 岡元信のパーソナル・クッキング
サロン」
講師:西麻布「日本料理 ラ・ボンバンス」岡元信 先生。
習うメニューは
○ 茄子のムースとトマトのジュレ
○ 帆立貝柱と海老・冬瓜のソテー 干し貝柱あんかけ
○ 蛤スープ沢煮立て 道明寺団子
○ とうもろこし飯
○ キウイソース ティラミス仕立て
の5種類。店で出している評判の一品が5点選ばれていて、
どれもこれも食べたことがあるもので、食べる度に、うま
いなァ、これどーやってつくるんだろうと思っていたもの
ばかりである。
銀座プランタンの5階にあるエコール プランタン クッ
キング スタジオで午前11時30分から始まるが、エプ
ロン、手ふき用タオル、ノート、筆記用具を抱えてプラン
タンについたときは、まだ11時だった。
時間つぶしにプランタンの回りをうろつくと、古本市がで
ていた。大学6年生のとき、丸善書店に就職してお茶の水
店に配属になった大学の同級生のIの好意で、
「丸善大決算セール・名本古本大書店市」
の売り子のバイトをして生活費を稼いでいたことがあるか
ら、こういう古本市があると、懐かしさも手伝ってかなら
ず足を止め、掘り出し物を掘り出しにかかる。
ながめていると、文化・経済・法律のお堅い本からベスト
セラー小説、図鑑、写真集から江戸時代の枕本・春本の類
まで軟硬とりまぜて置いてあり、いかにも古本市の様子を
呈していたが、だからといって掘り出す物はないように思
えた。そろそろ時間だな・・と去ろうとしたときに、
「寺山修司全シナリオ集」
というぶ厚い本が目についた。
そういえば、しばらく前のこと。麻布の飲み屋で飲んでい
ると、障子で仕切られたとなりの座敷からこんな会話が聞
こえてきた。
「今の時代をどう表すか。ムツカシイ世の中になったね。
今こそ寺山修司じゃないかァ。いや。なんで寺山かは説
明がつかないけど、そんな気がするんだよ。寺山に比べ
たら三谷幸喜なんか猿だよ。体制に飼われた猿。あんな
に才能がありながら向かう場所がどっか違うんだよな。
三谷の映画には先輩映画監督諸氏に対するオマージュが
満載されてるというが、俺に言わせりゃただのパクリだ。
寺山みたいにはっきり言えばいいのに。これはパロディ
ーではなくただの冗談ですって」
三谷幸喜がどういう監督であるかは、その声の主といささ
か論を異にするが、一番最後のフレーズが妙に気に入って、
今は亡き寺山修司に今の世の中を見させたらいったいどん
な脚本を書くのだろうとおもっていた矢先だったから、一
も二もなく全シナリオ集を買って、プランタン エコール
クッキング スタジオに飛び込んだときは料理教室開始直
前だった。
これが教室でつくった料理だ。
![](/contents/012/141/369.mime7)
上の段の左から、
茄子のムースとトマトのジュレ。
帆立貝柱と海老・冬瓜のソテー 干し貝柱あんかけ。
キウイソース ティラミス仕立て。
下の段左から、
とうもろこし飯。
蛤スープ沢煮仕立て 道明寺団子。
信じられないことに、ミシュラン☆和食レストラン
「ラ・ボンバンス」で食べたときと同じ味がする。
いや。これまで料理の才能なんてまるでありゃしないと思
っていただけに、カスヤさんもなかなかなやる者であった。
といっても、わたしは、茄子を切ったり揚げたり生クリー
ムをかき回すのを手伝ったりしただけで、下ごしらえから
仕上げまでのそのほとんどを岡元シェフが作ったんですが
ね。
岡元シェフは料理教室をやるにあたって関係者から、あま
り店の秘策を全部を教えちゃだめですよと釘をさされてい
るらしいが、そこは心優しき岡元シェフ。教えられるとこ
ろは全部教えてくれた。こっちは自慢じゃないが素人だ。
教えてもらっても覚えきれるものではないことはとうにお
見通しだろう。
で、寺山のシナリオを手にいれ美味い昼飯を自分でつくっ
てありついて昼っから気分がよい。その後で事務所に顔を
だし、ひと仕事の後、寺山全集を読んでみると、あら懐か
しや、政治運動家・映画評論家の松田政夫氏の名文調・迷
文調の解説などがあったり篠田正浩監督の回顧録があった
りして、なんだか、丸善の店先で売り子のアルバイトをし
ていた大学6年生の時代に戻ったようで、回春であった。
そして、夜は、料理教室で知り合った人が旦那さんとやっ
ているという寿司屋・五徳に行く。NHK西玄関前を一本
はいった遊歩道脇にあるその店は、ラ・ボンバンスもうか
うかできないぞ! と思われるくらいなにもかも絶品で、
7月を迎える初日としては上出来な1日だった。