サイバー犯罪研究所ファイル9「それは5年前から始まった・後編」

コピペで増殖する電子掲示板

大谷 憲史(2007-06-08 15:30)
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 2002年11月。

 私が教員を辞めたころから、ヤフーや2ちゃんねるの掲示板に「宮崎県教育管理職員に対する措置要求書」と書かれたトピックスが次々と立てられた。

ネットの世界ではコピペだけで簡単に人を誹謗中傷できる(写真はイメージ、ロイター)

 そこには2002年3月下旬に宮崎県内のすべての公立小中学校に送られたメールと同じような文章が掲載されていた。氏名のところは伏せられてはいたが、延々と措置要求書だけが、繰り返し掲示板に書かれていた。異常とも思える書き込みであった。

 当初は、A子教諭の夫であるB教諭が、A子教諭の代わりに掲示板に書いていたのだろうというぐらいで、「粘着質の嫌な先生だなあ」という風にしか思わなかった。

 もちろん、掲示板への書き込みはハンドルネームなので、B教諭が書いているという確証はなかった。私はプライベートなことでゴタゴタしていた時期でもあり、しばらく、この話題に触れることはなかった。

 2003年4月、地元の公民館で本格的にパソコン講座を始めるようになった。

 インターネットも本格的に再開。久しぶりにネットサーフィンをしていると、あの「宮崎県教育管理職員に対する措置要求書」なる掲示板を発見した。A子教諭と教育委員会のトラブルは依然続いているように思えた。

 しかし、1年前に見た「措置要求書」とはちょっと内容が変わっていた。文章自体が短くなっていたし、文章のニュアンスも以前のものとは違っているように感じられた。

 2004年8月、事件が起きた。

 電子掲示板にA子教諭に関することを書いた人物が逮捕された。このことがきっかけで、この問題はさらにエスカレートする結果となってしまった。

 ヤフーの宮崎県や鹿児島県の掲示板だけではなく、教育問題の掲示板や関係のない掲示板に「宮崎県教育管理職員に対する措置要求書」に関するスレッドが立てられた。ヤフーに削除依頼をし、掲示板が削除されたのもつかの間、また新たな掲示板が立てられた。文字通り、掲示板の自己増殖である。

 私は当初、B教諭がすべての掲示板を立てていたのではないかと考えた。

 そう考えた理由は簡単である。掲示板を開設したり書き込みをしている時間帯が、いずれも夜から朝方にかけてだったからである。勤務時間である昼間は当然、書き込みはできない。ただ、これだけで、B教諭であると断定することはできない。

 しかし、2005年以降も、この傾向は変わらなかった。削除されても次々に同じような掲示板が立てられていった。最初に掲示板が立てられてからすでに3年がたっていた。

 この掲示板を立てた人物はB教諭ではないのではないか。

 2005年にサイバー犯罪研究所を開設してから、この掲示板に関する情報を知りたいという人間が増えてきた。このような情報を知って、どうしたいのか不思議なのだが、ほとんどの人間が「電話やメールで注意したい」と理由を挙げる。注意するぐらいで解決するのであれば、何もこんなに長期に問題がわたることはない。

 情報を知りたいとする人間も、ほとんどが匿名である。自分の素性を明かさない人間に情報を流すことは、さらなる被害を生むことになる。いつも丁重にお断りしている。

 もはや犯人探しは、意味をなさなくなった。

 ネット上の情報は、コピー&ペースト(通称:コピペ)で簡単に取り込むことができる。これは2チャンネルなどでは「コピペ文化」とも呼ばれ、著作権問題でも必ず取り上げられる。

 掲示板に書かれている内容をコピーし、それを別の新しい掲示板の投稿欄にペーストする。

 これで完了である。際限なく、似たような掲示板をつくることができる。

 掲示板を開設するためのハンドルネームやIDは、いつでも捨てられるものを利用する。誰かのハンドルネームの1文字だけを入れ替え、あたかもその人物が書き込みをしたような偽装もできる。

 いわゆる、愉快犯である。

 今年に入り、この掲示板を見かけることが少なくなってきた。2ちゃんねるでは、まだ掲示板の存在が確認できるが、なんと、その掲示板に今度は私の名前が掲載されていた。

 以前、私が発行しているメールマガジンで、今回の件を取り上げたのだが、その内容の一部と編集後記に書かれていた私の名前、電話番号等がそのまま掲示板に掲載されていた。私に対する誹謗(ひぼう)中傷の書き込みはないので、そのままにしている。この掲示板も5月26日以降、更新された気配はない。

 宮崎県を発信源とした5年にもわたるこの問題は、そろそろ終わりを迎えるのだろうか。それとも、今回、私が記事として取り上げたことで再燃するのだろうか。

 悪意を持っていなくても、遊び心だけでも、コピペすることで簡単に相手を誹謗中傷する文章ができあがる。たとえ、自分がキーボードから悪意ある文章を打たなくても、やっていることは同じある。しかも、著作権までも無視することになる。

 今日もどこかで、相手を誹謗中傷する掲示板が、コピペにより増殖しているかもしれない。



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