サイバー犯罪研究所ファイル7 「誰かに私の話を聞いてほしい」

孤独なネットの住人たち

大谷 憲史(2007-05-31 05:00)
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 サイバー犯罪研究所では、トラブル相談やサイバー犯罪がらみの相談を受けているだけではない。たまには以下のようなケースもある。

私 「はい、サイバー犯罪研究所です」

相談者A子(以下A子) 「ちょっとご相談したいことがありまして、お電話を差し上げました」

私 「どのような件でしょうか。お分かりいただける範囲でお話しいただけませんか」

A子 「実は私、宮崎県の○○町に住んでいるのですが、毎日、インターネットをやっていて、少し不安になることがあるのです」

私 「どんなことでしょうか」

A子 「インターネットって、みんなつながっているように見えますが、本当はつながっていないんですよね」

私 「ええ。あなたのおっしゃるように、パソコンの前ではみなさんお1人ですよね。そのことが何か?」

A子 「そのことがさびしいんです」

(うん? 相談じゃないのか?)

私 「具体的にお話していただけないでしょうか?」

A子 「私が住んでいる○○町は、若い人が遊びに出掛けるようなところがあまりなく、たまに外に出掛けると、ほかの人の視線が気になって、影で私のことを悪く言っているのではないかと思うことがあるのです」

私 「単なる思い過ごしではないのですか?」

A子「私もあまり深く考えないようにしているのですが、次第と家にいることが多くなり、ふと気づくと誰とも話さないでいる自分に気がついたのです」

私 「それで、お電話を?」

A子 「いけませんでしたか?」

私 「いえ、構いませんよ。いつも難しい相談ばかりですから、たまにはこのようなお電話もいいなと」

A子 「助かりました。こうして誰かとお話をするって、本当はとても大切なことなんですよね」

私 「はい。私もいつもはほかの方の相談を聞いているので、たまには誰でもいいから世間話をしたいと思うことはあります」

 その後、この相談者A子さんと30分近く、いろいろな世間話をした。

 初めは緊張していたA子さんだが、時間が進むにつれ、笑い声もあげるようになってきた。相談で知り合ったとはいえ、赤の他人とこんなに長い時間、電話で話したことはないとのことだが、私も初めての経験であった。

 「誰でもいいから話をしたい」

 「誰かに私の話を聞いてほしい」

 A子さんだけではないだろう。

 恋人や家族が身近にいても、お互いにとことん話し合う機会はどのくらいあるのだろうか。ましてや1人で生活していると、話し合う相手などいない。毎日のようにパソコンをパートナーに過ごしている私は、気がつくとパソコンに話しかけている。

 さびしさを紛らわせるためにインターネットに接続する。電子掲示板やブログで情報交換をしたり、動画を観たり、インターネットでみんなとつながっているように見えるが、A子さんが話したように、しょせん、パソコンの前ではみな1人である。パソコンの前でため息をつく自分がいる。

 A子さんと話をしてから、サイバー犯罪研究所の電話が鳴るのが楽しくなった。

 相談内容は決して簡単なものではないが、電話を介して相談者の声を聞くことで、逆に自分の存在意義を確かめている。

 5月26日、土曜日。

 珍しく昼間に電話が鳴った。相手は女性である。

 インターネットをしていたら、いつの間にかアダルト系サイトにつながってしまい、画面に「登録完了! 8000円をお振り込みください」というメッセージが出たので怖くなったとのこと。

 相変わらずこの手の相談は多い。相談者の話をよく聞いてから、いつものアドバイスをした。私が電話口から発する、「心配することはありません。大丈夫ですよ。何かありましたら、私がいますから」という言葉に安心したようである。良かった。

 文字、音楽、動画とさまざまな情報があふれているインターネットの世界。そこには便利さはあっても、リアルタイムな人間の情報は少ない。話したくない時に相手がいて、話したい時には相手がいない。

 このような情報社会にあって、誰でもいいから話をしたいという欲求は自然なものではないだろうか。

 今夜は、電話は鳴るのだろうか。



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