サイバー犯罪研究所ファイル6 「消えたクライアント・2」
OKメモで日本を乗っ取る?
【「サイバー犯罪研究所ファイル5」からのつづき】
OKメモに関する取材を始めた。まずは、相談者であり情報提供者であるD氏母子に会うことにした。
2006年5月11日。熊本市内のファミレスにて。
D氏と、D氏の母親は、どこにでもいるような普通の親子のように見えた。彼らが「日本乗っ取り」を計画している人物の情報を握っているとはとうてい思えなかった。
真偽を確認するため、D氏母子の話を5時間近く聞いた。以下はD氏の母親の話をまとめたものである。
◇ ◇ ◇
OKメモを作成したOK氏は、中卒という学歴を偽り、他人になりすまし、内閣情報調査室(内調)に非常勤スタッフとして入り込んだ。類まれなるIT技術を駆使し、内閣府等のサーバーに潜入。国会議員や官僚に関する、世間に出してはまずい情報を独自に収集。それを自らの計画を実行に移すために使用。
OK氏が権力を行使できた背景には、M資金を握っているS県のボスを中心とする「北朝・尼子一族」の存在があった。OKメモには、自衛隊の戦闘機で国会議事堂周辺を旋回する、主要メディアを押さえる、マスコミを通して全国に日本を古代帝国軍が制圧したことを宣言する等、具体的な軍事行動が書かれているそうだ。
薩摩藩の西郷隆盛の出身は熊本県菊池市。熊本、鹿児島、宮崎には南朝の血筋を引いている人が多い。薩摩が長州と連合を組んだのは,南朝の血筋を引いた山口県の大室寅之佑を即位させ、明治天皇とするためだったらしい。
戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が旧日本軍から接収した巨額の資金(M資金)をS県の北朝尼子一族が握り、戦後の裏資金として使われていくことになった。
この北朝・尼子一族のバックアップを受けたのが、OK氏である。巨額の資金とM資金関係の人脈を巧みに利用し、学歴と名前を偽り、内調に潜入。北朝・尼子一族による日本転覆計画を企てる。
OKメモはメモに過ぎず、元データはフロッピー数100枚、CD数100枚に渡る膨大なものである。選挙資金が必要になった議員や秘書が、OK氏に接触し、ある議員のスキャンダル写真等を入手し、その写真をネタにして金を取っていたこともあったらしい。
D氏の母親が、このOKメモのことを内調の国内部に連絡したところ、ほとんどの職員がこのメモの存在自体を知らなかったらしい。もともと、OKメモの出どころは内調の国際部であり、国際部と国内部はお互いに情報交換をすることもない。よって、国内で起きている情報を国内部ではなく国際部が握っているという変なねじれ関係が起こっているのである。国内部の職員のほとんどが検事であるが、その検事たちが内調で起きていたことに気が付いていなかった。
現在、OK氏は所在不明とのこと。
◇ ◇ ◇
まるで小説のなかに出てきそうな話であった。その1つひとつをつぶさに調べ、事実を明らかにしなければならないが、相手が国の機関ともなると、私のような相談屋には到底太刀打ちはできない。できたとしても……。
D氏の母親の話をもとに、インターネットで調べまわったが、もちろんそのような情報はどこにも出ていない。
やはり、まったくのでたらめではないか。
2006年5月15日。D氏の母親が話していたような「日本乗っ取り計画」は起きなかった。実際、起こらないことに越したことはないのだが。
そして、この日を境に、D氏母子との連絡も取れなくなってしまい、私もいつの間にかこの件から遠ざかっていた。
しかし、つい最近、音楽関係の電子掲示板をのぞいてみたところ、D氏の名前を見つけた。リンクが貼(は)られていたので,そこのサイトに接続すると、D氏の名前で、D氏が所属する音楽バンドから脱退する旨の文書が掲載されていた。日付は今年の2月下旬。彼はまだどこかにいるのである。
早速、調査再開。
音楽関係の電子掲示板を中心に調べていくと、D氏に関する書き込みを発見。日付は2004年と古い。そこには、D氏から金をだまし取られて被害を受けたこと、D氏が所属していた音楽バンドと大手音楽産業会社がトラブルを起こしていて、D氏がこの会社への仕返しを考えていること、その仕返しに協力してくれる相手を探していることが書かれていた。
たしかにD氏の相談内容の中に、大手音楽産業会社の不祥事を暴きたいというような話があったが、到底信用できるようなものではなかったので、そのままにしていた。仕返しの協力者を探していたということであるが、それが私であったのだろうか?
いずれにしても、とんだ相談者であった。
が、私にしてみれば大切な相談者の1人でもある。D氏はD氏なりの悩みを抱えていたのだろう。その悩みをストレートに話しさえすれば、詐欺まがいの話をでっち上げなくても済んだのだが。
さて、今年も5月15日は平和に過ぎた。これからも平和が続くことを願うだけである。